ハーメルン
【完結】邪神系TS人外黄金美女が古代神話世界でエルフ帝国を築くまで
ホワイトダーク・ダイアモンドダスト Ⅰ




 北の森(ヴォラス)での暮らしは、一年を通してあまり変わり映えがしない。
 視界に映るのは、ひたすらに白い雪と黒い針葉樹林で、色彩というモノに欠けている。
 たとえ天気のいい昼間であろうと、年中覆いかぶさる分厚い雲のせいで、長老たちから噂に聞く青空(・・)などは、一度として拝めたためしが無かった。

(一面の銀世界、なんて言ってみれば、多少は聞こえが良くなるかもしれないですが)

 凍てつく冬の寒さ。
 採れる物の少ない自然。
 火を禁じられた生活に、獰猛なダイアウルフ。

 およそひとが生きていくには、あまりに厳しすぎる北の森(ヴォラス)での日々。
 一日の内に日の昇っている時間はとても短く、天気が悪ければロクに周囲も見渡せない。
 ホワイトアウトは最悪だ。
 無駄に彷徨い体力を消耗すれば、容易に命を落としかねない白き死神。

 白銀の世界なんて、闇も同然である。

 十六年間生きてきた中で、ルキアはこれまで心から自由を感じたコトが恐らくだがない。
 自由。いや、この場合は開放感と言い換えた方が妥当かもしれないが、エルフとして生まれ、雪の牙一族の九十年間でようやく産まれた希望の若芽産まれてから百年に満たないエルフを指す。百年を超えたエルフは成木と呼ばれる。。
 物心つく前から、周りにいる成木たちはルキアをそう尊ぶように呼んできた。

 厳しい暮らしの中では貴重なはずの食べ物も。
 着るのに暖かな上等な毛皮や、貴重な鉱物で拵えたナイフなど、日常に役立つ道具類。

 ──ようやく産まれた我が一族の若芽。
 ──かわいい子だ、大切に育てなければ。
 ──よく食べて、よく眠り、健やかに、そして何より丈夫になっておくれ。

 愛情深いと言えば、まさしくその通り。
 愛されずに育てられるより、愛を注いで育てられる方が万倍もいいのは分かっている。
 ルキア自身、一族のことは大事だし、優しい彼女たちに報いてあげたい気持ちは大きい。彼女たちが望む自分でありたいと心から思うし、そうあるべきだと教えられてきた。
 だが、だからこそ、自分の中の奥深く、無意識に近い場所で、密かにこう思っている自分もいる。

 ────重い。

 北の森(ヴォラス)での生活も、一族から向けられる期待も。
 時代が悪いと片付けるのはすごく簡単だ。
 人間に追われ、種族古来の土地を失い、奉ずるべき守り神も消え失せた。
 今こうして目の前にあるのは、何もかもが苦しい現実だけ。

 豊かさとは無縁の厳しい北の森。
 人目を忍び、隠れるように息を潜める毎日。
 牙の神オドベヌスは生贄を求め続け、火を禁じた。

 最初からこう(・・)だったルキアには、正直、世界とはそういうものなんだな、で話は終わる。

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