四話 東西交流戦 開幕
しかし今の彼は、一人一団から一歩引いたところで、暗い表情で佇んでいる。その様子は、昨夜のはしゃぎようからは想像できないほど静かなものであった。
士気は問題ない事を確認した三年生のリーダーは、一人寂しそうにしている刃の元へ向かう。
「どうしたんだい宮本君?随分と暗いな、昨日まではあんなに元気そうだったのに……」
「ん……?何でも無いよ、心配しなくていい。……ただちょっと、不安なだけだから」
それを聞いて、──ああそうか、と考えもしなかった彼の心情を察する。
「そうか……。確かに大将の君は、私達よりもずっと強いプレッシャーに晒されているのだろうな」
ずっと勘違いしていた。天神館にいる間、大将役になった彼を見て、これで無理矢理に練習に参加させられなくてすんで、彼も安心しただろう、と。お門違いも甚だしい。宮本君は安堵したのでは無い、私達なんかよりも、ずっと重い役目に就かされたのだ。
心の中で刃に対して謝罪すると同時に、リーダーの男子生徒は、今できる精一杯の励ましの言葉を送る。
「不安に思うことなんて何も無いさ。宮本君も見てただろう、頑張って練習する私達の姿を」
「…………」
励ましの言葉を送るも、効果は見られない。むしろ、より顔が険しくなったようにすら感じる。だが、何時までも刃に時間を割いている暇はない。開戦の時刻が迫ってきていた。
「心配するな、大丈夫。私達はきっと勝てるよ」
「……あぁ、ボクもそう願ってるよ」
最後に言葉残して去っていく後ろ姿を眺めながら、刃の心の曇りは、依然として晴れることはなかった。
∞
「さて、と。いよいよ始まったか」
最終決戦である三回戦が始まる時、大将である刃は、既に一人遠くに避難していた。だが、どこか狭い場所に隠れ潜むつもりは毛頭ない。それではせっかく楽しみにしていた今回の戦いが見ることができないのだから。潜伏場所は、戦いが一望できる高所が望ましい。
刃は戦闘の余波が及ばない離れた鉄塔に登り、戦場を見渡す。
まず一番初めに目に飛び込んできたのは、今日ここに至るまでずっと観察し続けてきた仲間達の連携技だった。その名も『天神合体』。ネーミングそのままに、彼らが合体し巨大な一つの生物となる奥義である。
数百人が連なることで完成する巨人の異様を改めて見て、妙技と謳われるだけの威圧感があると実感した。その巨体は、戦場である工場地帯を覆うほどであり、並の相手なら腕の一振りでペシャンコだろう。
けど、今回ばかりは相手が悪い。
タラリと一筋の冷汗が頬を伝う。仲間達が対峙する相手、川神百代のその圧倒的な闘気に、刃は確信する。
──あれは……勝てない。
彼我の距離は、常人では豆粒にしか見えないほど離れているが、刃の目には確と見て取れる。その武神と呼ばれる川神百代、その少女の実力が。
「やっぱ映像で見るのと、生で見るのとじゃ迫力が段違いだ」
誰もが知るレベルで有名な百代の事は、もちろん武術マニアとまで呼ばれる刃が知らないはずもない。昔の決闘から、過去川神学園で行われた特別行事、川神大戦の映像も視聴済みである。だが、映像だけでは見て取れない、その身から溢れ出る気の大きさは、数百人の集合体である仲間達をたった一人で凌駕していた。
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