五話 最も強き者
だがそれは、あまりにも遅すぎた。
何故ならば、それは、刃はもう既に……
──構えているのだから。
「──え?」
それは今まで黙って状況を見守っていた非戦闘員の男子生徒の一人が、思わず発した声だった。
訳がわからないと言わんばかりに、その顔には困惑が満ちている。彼だけでは無い、同様に見守っていた京極達3人全員が、何が起こったのか理解できていなかった。
気づいたら、それは終わっていた。
気づいたら、刃は百代の後方にいた。
気づいた時には、最強は倒れていた。
チャキン、と刀が納刀される音が木霊する。
構えを解いた刃は後ろに振り向き、状況を確認した。そこにあるのは、仰向けで気絶している百代という現実だった。
10秒、20秒とその静寂は続き、やがて刃はその右手を高らかに掲げ、宣言する。
「大将、討ち取った」
東西交流戦。その結末は、天神館の勝利に終わった。
∞
「あれが、お主の言っておった若者かの?」
東西交流戦が開戦している工場地帯から少し離れた高層ビルの上で、事の成り行きを見守っていた人物が二人いた。一人は天神館学長、鍋島正。もう一人は川神学園学長の川神鉄心であった。
鉄心はその長く蓄えられた白髪の髭を撫でつけながら、その光景を目に焼き付ける。
開始早々にして壊滅的被害を被った天神館側の残す戦力は、大将である宮本刃、ただ一人だった。最早、勝負は決したものだと思ったが、それは早計であったと言わざるを得ない。
何故ならばその残された戦力が、自身の孫娘同様に一騎当千の力を持つ存在だったからだ。
刃は、仲間達が倒された後にすぐさま行動を開始した。倒れていた仲間達が持っていた刀を拾い上げ、討ち漏らした敵を叩くために迫ってきた川神学園の生徒達を、目にも止まらぬ速さで斬り伏せていったのである。
その姿は、側から見るだけでは何が起きているのか皆目見当がつかない程に不可思議なものであった。刃の側に近寄った者たちは、皆悉く倒れていく。そうして、散開する敵勢力をしらみ潰しに探して回った刃は、総勢196名の生徒達を30分足らずで全て倒してしまったのだ。
彼が何をしたのか、それは歴戦の武道家である鉄心をしてもハッキリとは目にできてはいなかった。だが、何をしたかは分かる。
刃は全く構える事なく、無造作に抜き放った刀で斬り捨てたのだ。常人ではとても認識できない程のスピードで。
末恐ろしい、と鉄心は感じた。あの若さにして、いわゆる一つの技の極地に辿り着いている。
「実に恐ろしい弟子を育てたのぉ」
「ふっ。弟子なんて大層なモンじゃねぇよアイツは。俺がアイツに教えてやった事なんて、一つもねぇからな」
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