ハーメルン
真剣で居合ってカッコいい! 
八話 絡まれる日々




 武士道プランが世の中に公表されて2日目。世間では、当日以上にその熱気が増しつつあった。
 多くの人々が川神に足を運び、英雄の姿を一目見ようと訪れる。今日だけで川神に訪れた観光客の数は、去年の十倍にもなっていた。

 しかし、そんな人数が一度に川神学園に訪れれば、他の一般学生の学業や生活に支障をきたす。そこで、武士道プランの開発責任者である九鬼は、治安維持のために九鬼の従者部隊を川神中に配備していた。
 全員が執事服、メイド服を着こみ、様々な分野のエキスパート達で構成された実力派集団。
 そんな彼らが、武士道プランの公表によって起こりうるであろう問題を事前に防いでいる。だからこそ、今もこうして川神学園の生徒達は、問題なく登校できているのである。

 それは、英雄のクローンである義経、弁慶、与一の三名もまた同様であった。

「ふぁ〜……。眠いねぇ」

「弁慶寝不足か?いけないぞ、睡眠はしっかり取らないと」

 ウェーブのかかった黒髪に、豊満な体つきをした妖艶な雰囲気を醸し出す美女が『武蔵坊弁慶』。
 
 その弁慶を窘めている少女。長い黒髪をポニーテールにした彼女が『源義経』だ。

「いやー、昨日はちょっとだけ深酒しすぎたかなぁ?」

「弁慶もそんなに川神水ばかり飲んでないで、早寝早起きを心がけると良い。健康はもちろん、早起きは三文の徳、と言う言葉があると、義経は聞いたぞ!」

 川神水という未成年でも飲め、雰囲気で酔えるらしい不可思議な飲み物を腕に持った瓢箪に常に入れて持ち歩いている弁慶は、まるで二日酔いしたサラリーマンのようである。

 一方、そんな不真面目な弁慶とは対照的に生真面目な義経は、もはや中毒になりつつある川神水を飲むのをやめて、健康的に暮らすようにアドバイスする。

「無理無理。私はそう言うの向いてないから、そうゆう真面目っぽい事は義経に任せるよ」

 だが、せっかくの主の忠告ではあるものの、そんな生活は弁慶からしたら勘弁願いたいものだ。彼女の自堕落な性格と生活習慣でいきなりそんな事をしては、それこそストレスで倒れてしまう。
 義経は、しょうがないと言う風にため息をついた。

「はっ。またそうやっていい子ぶってるのか?くだらねぇ」

 そして、それを横で聞いていたクローン組唯一の男性『那須与一』は、義経を小馬鹿にしたようにそう言う。

「ちがっ!?……義経は別に、いい子ぶってるわけじゃ……」

 その斜に構えた物言いに落ち込む義経だが、与一としても別に本気で馬鹿にしているわけではない。ただちょっと言ってみたかった、それだけなのだ。だからと言って、落ち込む義経に素直に謝る与一ではない。ポケットに手を入れて、置いていくように先を急いだ。
 しかし、そんな無礼な態度を弁慶が見逃すはずもなく。

「おい与一、主に対して失礼だろ」

「わ!?や、やめてくれ姉御!く、首……が…ぁ……」

 後ろから与一の首根っこを掴んだ弁慶が、そのままヘッドロックをかけて締め上げる。そして締め上げられている与一は、先程までのカッコつけた態度とは一転、情けなく許しを乞うていた。
 見るからに二人の間には、上下関係が出来上がってしまっている。

 このままでは与一が泡を吹いて気絶するのも時間の問題であったが、そこにクローン組最後の一人である清楚が、自転車に乗りながら登場したことによって事なきを得る。

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/7

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析