ブランシュ殲滅
茜色に染め上げられた世界の中、夕陽を弾いて疾走する大型のオフローダーが、閉鎖された工場の門扉の前で停車した。車から降りるのは四人の男女。達也と深雪、部活連会頭の十文字克人、そして市丸ギンの四名だ。
「俺と深雪は、このまま踏み込みます。会頭は左手を迂回して裏口へ回ってください」
「あれ、ボクには何も言わへんの?」
「お前は勝手に動くんだろ」
「ようわかっとるやないの。それじゃ、そうさせてもらうわ」
そう言うと、市丸は跳躍の魔法を使って屋根の上に登ってしまった。
「市丸さんは、高い所が好きなのでしょうか」
深雪が呟いた言葉に達也は思わず吹き出しそうになった。そう言われてみると、市丸は屋上などから飛び降りて登場することが多い。おそらくは視界が広く取れるという利点のためとは思うが、案外、単純に高い所が好きというのもあるかもしれない。
「お前たちも気をつけろ」
そう言って克人が裏口に向かったのを見て、達也たちも薄暗い工場の中へと進む。
遭遇は意外に早かった。
達也は遮蔽物の確保など気にせずに進み、相手もホール状のフロアに隠れもせずに整列していたからだ。
「ようこそ、はじめまして、司波達也くん! そしてそちらのお姫様は、妹さんの深雪くんかな?」
「お前がブランシュのリーダーか?」
「おお、これは失敬。仰せのとおり、僕がブランシュ日本支部のリーダー、司一だ」
「そうか。忠告する。全員、武器を捨てて両手を頭の上で組め」
「ハハハハハ、君は魔法の苦手なウィードじゃなかったのかい? おっと失礼、これは差別用語だったね。でも、君のその自信の源は何だい? 魔法が絶対的な力だと思っているなら、大きな勘違いだよ」
哄笑と共に狂気を色濃く滲ませた司一が、右手を上げた。
左右に並ぶ、総勢二十人を超えるブランシュのメンバーが、一斉に銃器を構えた。
拳銃だけでなく、サブマシンガン、アサルトライフルを持つ者すら混じっていた。
しかし、いずれにせよ手遅れだ。
「散在する獣の骨、尖塔・紅晶・鋼鉄の車輪。動けば風、止まれば空、槍打つ音色が虚城に満ちる」
フロアの上から微かに響いてくる声。それを聞きながら、達也は深雪を背後に隠しながら、一歩、二歩と後退する。
「破道の六十三、雷吼炮」
天井を突き破って落ちてきた雷撃が、司一と左右に並んだブランシュのメンバーたちを纏めて薙ぎ払う。雷撃が止んだ後、息のある者は一人たりともいなかった。
「市丸、俺たちがもっと中に踏み入っていたら、どうするんだ」
「その場合は一気に殲滅せずに、刀で斬っていくだけやね」
天井に空いた穴から降りてきた市丸に苦情を言うも、あっさりとそう返されてしまう。
「俺たちはこのまま奥に向かう。お前はまた、好きなようにするんだろう?」
「そうやね。そうするつもりや」
「頼むから、俺たちを巻き込まないようにしてくれよ」
今の雷吼炮という魔法も、達也は起動式を読むことができなかった。おそらく無効化もできなかったことだろう。市丸の魔法の誤爆だけは、絶対に避けたい。
「心配せんでも、そないな下手は打たへんよ」
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/3
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク