九校戦の準備
市丸は本日、九校戦の発足式に臨んでいる。市丸の選出は、実力から考えれば順当であるので、そのことには特に驚きはない。しかし、選手をサポートするエンジニアにはある意味では順当でない人選があった。それは二科生である司波達也が多くの上級生をも押しのけ、技術スタッフ八名の中に、一年生として唯一、選抜をされたということだった。
達也の実力は疑うことなく高い。けれど、九校戦は身体能力も高い方がいいものの、魔法力が高ければ押し切れるという競技がほとんどだ。達也が選手としては不適当という判断も妥当なものだろう。
それよりも市丸は達也のエンジニアとしての優秀さの方がよくわからない。エンジニアとして選抜された他の上級生たちからの評価は非常に高い。しかし、市丸はCADは自らの技能の異質さを隠すために持っているだけだ。最初から大事な場面では使うつもりがないため性能にも無頓着な面があり、結果として達也の技量もわからないのだ。
だが、達也にそれだけの技量があるのなら神鎗の不自然さにも気づいてしまう可能性がある。あまり触らせたくないというのが市丸の本音だ。幸いなのは一年生男子の選手の中には達也に嫌悪感を抱く者が多く、達也が市丸の担当とはならないことだ。
そして今は九校戦の選手とエンジニアに順に深雪から本番で競技エリアへ入場するためのIDチップを仕込んだ徽章を襟元に付けていってもらっているところだ。それは、深雪が達也の襟にも徽章を付けるということだ。
深雪はとろけそうな笑みを浮かべて達也の襟に徽章を付ける。それと同時に大きな拍手が起こる。それは一科生が前、二科生が後ろという不文律を破って前から三列目にまで進出をしていたレオ、千葉、柴田といった達也の同級生たちの一団だった。
「どうなんやろね、あれ?」
「どういうことですか、市丸隊長」
「森崎は、なんでボクのことを隊長って呼ぶん?」
「市丸隊長は僕たち第一高校モノリス・コード新人戦チームのリーダーです。隊長とお呼びするのに何も問題はありません」
「ま、ええんやけどね……」
退院するときにしてもそうだが、市丸は森崎から好印象を持たれている。その原因には今のところ森崎自身も心当たりはないようだ。
「それで、どういうことでしょうか、市丸隊長?」
「ああ、あの二科生たちやね。ただ純粋に同じクラスの人間を応援するだけなら、構わへん。けど、二科生の代表って気持ちが強いようなら、それは新たな一科生と二科生の対立の元になるだけや。司波達也がいかに優れていようと、それであの二科生たちの実力が高くなるゆうことはないんやから」
自分たちも一科生と比べて劣っていないと考えるなら、それは誤りだ。二科生たちは概ね一科生に劣る。ただ、一部に魔法科高校では評価外の身体能力で一科生を上回る戦闘能力を持つ者がいるというだけだ。そこの認識は誤ってはいけない。
「確かに他人の力を、己の力と誤認するのは危険ですね」
「ま、ほんまに勘違いしたのが現れたなら千葉あたりが対処しそうやけどね」
「なるほど、千葉道場に入ったというだけで強くなった気になる者を、エリカ殿は何人も見ているでしょうからね」
ちなみに森崎は退院してからすぐ千葉道場に通い始めた。まだ正式な剣技を学ぶ段階にはなく、体を作っている段だということだが、千葉の話ではそろそろ次の段階に進めるかもしれないという話だ。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/3
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク