九重寺
入学三日目の夜、市丸ギンは小高い丘の上にある寺を訪れていた。
中からは多くの人の気配がする。そして、それと同じくらいの気配を隠した人の気配も。いずれもなかなかの腕だということがわかる。
斬魄刀を抜刀した上で山門を潜ると、きれいに髪を剃り上げ、細身の身体に墨染の衣を着た男が門弟たちと思われる男四名を従えて待っていた。鍛え上げられた門弟たちはさながら僧兵のようにも見える。
「へえ、大将が自らお出迎えしてくれるとは、驚きやなァ」
「普段なら、まずは軽く歓迎といくんだけど、それをすると君、殺しちゃうでしょ」
「さすがに今日一日、見張っとったらそれくらいは気付かなね」
今朝、家を出たところからずっと市丸は監視されていた。文字通り監視だけで手を出してくる気配はなかったために、しばらく放置していたが、なかなか接触はしてこない。折角、待っているのだから、早く来てほしいものだ。相手の都合のいいときに気持ちよく訪問してもらえるように待ってやる必要もなし。それで、こちらから話をつけにきたというわけだ。
「僕の監視に気付くってことが驚きなんだけどね」
「それで、ボクを監視していた目的はなんですの?」
「君は一部では神童と呼ばれていることは知っているよ。けれど、魔法師の血こそ引いているものの、せいぜいがC級がいいところだ。そこから、まさか十師族も真っ青の力を持つ魔法師が出てくるとは思わないじゃないか。それに、聞けば昨日は同じ一科生の腕を躊躇することなく斬り落としたと聞く。僕たちは君のことはほとんど何も知らない。強大な力を持つ君が国の敵となる素地があるのか否かは気になるじゃないか」
「へえ、君らも国と繋がっとるゆうことか」
「ま、無関係ではないね」
市丸自身は愛国心のようなものはあまりない。そもそも尸魂界には他国というものが存在しないため、国という概念が薄いのだ。
「君らの監視は今日から。つまり誰かから一科生の腕を斬ったことを聞いた、ゆうことや。けど、それ、ただ聞いただけちゃうやろ? 監視も達也から頼まれた?」
「……達也とは誰のことかな?」
「やっぱ達也なんか。へえ、彼、国と繋がっとるの」
「いいや、彼は僕の弟子の一人だよ」
達也という名はそれほど珍しい名前ではない。それに苗字は知っていても名までは知らない相手も多いはず。達也の名を出したときに知らないというまでの反応は、少しばかり早かった。
「後学のために聞かせてもらえないかな。どうして達也くんが僕に依頼したとわかったんだい?」
「魔法科高校には君ら以外にも監視が付いとるやろ? けど、通常の監視を飛ばして上の応援を依頼した。それほどボクを警戒しているのは達也くらいや」
魔法師というものは個としては国で最高の戦力だ。国としても、それを完全に放置しないのは当然の危機管理だ。
その監視の目は一昨日の時点では市丸には付いていなかった。ならば、今日はまずは学内の監視の目を強化するのが筋のはずだ。それなのに、いきなり外部の手を借りた。となると、学内の監視とは別口ということになる。
「それで、君がわざわざ露悪的な行動をしてみせたのは、僕たちを炙り出すのが目的ということかな?」
「はて、何のことやら」
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