ハーメルン
君のウサギを巡る冒険
1. 流れ星を追って

 昨日までの雨は夜のうちに上がったらしい。
 空には筆で()いたように雲が列を作って並んでいて、感性とかとは無縁の僕でも、どこか秋らしい気がした。
 少しだけ、いつもより早めに家を出た僕は、いつものようにバス停へと歩く。

 さわやかな朝だった。ただ、さわやかといっても――特に何の(かわ)()えもしない一日だ。楽しみといえば今日が金曜日、というくらい。いや、中間試験が近いぶん、気が重いかもしれない。
 軽くため息をついて、僕は足を進めた。

 沼津市街に続く県道に出て、車が切れるのを待って渡った。
 内浦(うちうら)の海を左手に見ながら歩いて、僕はバス停の少し前で気づく。反対側のバス停にいる、二人の女の子。

 僕は少し背を伸ばして、制服の襟元を整えた。ちょっとくらい、気にしたっていいだろう。

 片方の子、桜内(さくらうち)梨子(りこ)さんが、僕に気づいて会釈した。僕もさりげなく頭を下げる。桜内さんは微笑(ほほえ)んで、もう一人の子、高海(たかみ)千歌(ちか)さんとの会話に戻った。

「それでね、梨子ちゃん、昨日のやつだけど、帰ってからちょっと練習したんだよ。――」

 僕はポケットからスマートフォンを取り出して、それを見るふりをしながら、横目で二人を観察する。
 楽しそうに話す、桜内さんと高海さん。
 もっぱら高海さんが話していて、桜内さんはころころと笑い、やや赤紫色を帯びた長髪が風に揺れる。朝、彼女たちを見かけることは滅多になかったから、今日は向こうのバスが遅れでもしているのだろう。
 いつもの一日では、少しだけ、なくなる。

「よっ! 翔真(しょうま)!」

 どんっ、と突然、背中を叩かれた。同級生の山口(やまぐち)恵一(けいいち)だ。

「おはよう」と僕は返す。
「なにかいいことでもあったか? 口元、にやけてるぞ」

 ニヤッと笑う山口。あわてて僕は顔をこすった。

「金曜日だし、ようやく明日は休みだからね」

[1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/6

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析