第十一話:一人で、二人で
もうすぐ夏が来ると照りつける太陽が教えていた。
ヨーロッパの国々を巡る日々もそろそろひと段落してよいだろう。
様々な国を巡り、様々な文化に触れ、いろんな料理を食べた。
基本的に表情の変化がないデュフォーとの食事ではあるが、こいつが美味いと感じた時の微妙な変化に気付けるようになってきた。
一応オレが朝食を担当していて、マズい料理を出すのはプライドが許さんので料理の腕は上げておかなければと思っていたところ、食べるのがオレ以外ではこいつ一人な為に、初めは味の判断基準が分からなかった。
観察すること一月。デュフォーが美味いと感じた時、マズいと感じた時、普通に感じている時の三つの変化があることに気付いた。
この変化が分かるのは今の所オレだけしかおるまい。その内あの鉄面皮を崩して見せるのが密かな目標の一つだ。
あだしごとはさておきつ。
ブラゴ達との茶会から半月ほどのこと、ここ一週間オレ達はイギリスで休息をとっている。
何やらデュフォーはガッシュと出会った森の付近を散策したいらしく、オレは少し離れた街でこの三日は一人だ。
目的を聞いてもあいつは何故かはぐらかしてきた。今までにないことだった。いつでも共に過ごしてきたのに、あいつ一人で何かをするなどと。教えろと迫っても決して口を割らない。
あいつが何処に居ようと魔力の目印を付けてあるので瞬間移動すれば合流できるとはいえ……少し腹が立つ。
確かにだ。一人で何かをしようと思い立つのは、あいつの過去を思えばいい変化なのかもしれない。他人に利用されるだけの人生を過ごしてきて、オレが死の運命から連れ出してからはオレの目的に付き合わせてきたのだから、自発的に行動し始めたのは喜ばしいことなのだろう。
だが、腹が立つのだ。
せめて目的を言え。ガッシュと出会った森の付近なら、確実にガッシュに関することだろうに。
―――それなのにあいつはオレを連れていかないといいやがる。
わけがわからない。あいつだってガッシュのことを少なからず気にかけていたはずなのに、オレと共に行動しようとしない理由が分からん。
「クソ……イライラする……あっ」
あまりのイラつきに削っているカツオブシの厚さが変わってしまった。
これではカツオブシチップスも作らないとバランスが取れない。あいつのせいだ。
他の厚さを調整するのが面倒だったので、ひょいと口に放り込んでサクサクと噛み砕く。
せっかくのオレのおやつも、一人で食べると味気ない。
こんな狭い部屋なのに、あいつが居ないと少し広い。
せっかくあいつに料理を作ってやることが出来るのに、今日も帰ってくる気配がない。三日だぞ、三日。
なんなんだあいつは。イライラする。
気配を消して後を追ってもいいが、あいつのことだから答えを出す者ですぐに気付いて絶対に呆れた目で見ながら、
“お前、ばれないと思ったのか。頭が悪いな”
とか言いやがるんだ。だから追跡することもできやしない。いくら魔力が強かろうと、いくら特殊な術が使えようと、あいつのあの反則な能力のせいで全て封じられる。かといってプライドがあるからあいつに教えてくれというのもイヤだ。オレにとって最悪の相手だ、全く。
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