ハーメルン
【第三部】『こちら転生者派遣センターです。ご希望の異世界をどうぞ♪』【追放者編】
第2話(2)リアリストな狼娘
「……いやあ~助かったよ、腹ペコで死にそうだったんだよね~」
「……なんだってあんな所で倒れていたのです?」
俺はスティラに治癒してもらった頭をさすりながら、俺たちの分け与えた食糧をモグモグと食べる狼娘に尋ねる。
「村の周辺をパトロール中に遭遇したモンスターを倒して回っていたら、思いのほか体力を消耗しちゃってね……」
「この辺りにもモンスターが?」
「むん(うん)、最近、ふぇっこう(結構)増えているみたいふぁね(だね)……」
「食べるか喋るかどちらかにして下さい……」
俺は呆れ気味に狼娘を見つめる。黒を基調とした赤い炎のような文様が描かれた袖なしの服を着ている。胸はもちろん隠しているが、腹は出している。ちらりとへそが覗く。細身だがよく引き締まった体は健康的な美を感じさせる。指抜きの黒いグローブと黒い肘当てを着けている。パンツは膝丈くらいの長さで、上半身の服と同じデザインになっている。ブーツは一応足裏を保護しているものの、足の甲の部分は出ている。茶色く綺麗な髪の毛を後ろで短くまとめていて、顔つきはまだ若干の幼さも感じるが、整った顔立ちだ。獣人と言うが多分に人間らしさがある。この世界の獣人は皆こんな感じなのだろうか。
「何さ~そんなじろじろ見て~?」
狼娘は悪戯っぽい笑みを浮かべて俺を見る。俺は慌てて取り繕う。
「い、いや、これは失敬。生業上、観察は欠かせないもので……」
「生業?」
狼娘は首を傾げる。スティラが口を開く。
「この方はこの世界に転生されてきた勇者様なのです」
「! へ~転生者! 初めて見たよ~エルフは何度かあるけどね」
俺は居住まいを正して、自らの名を名乗る。
「私はショー=ロークと言います。そしてこちらが……」
「スティラと申します。ここから北西にある山の出身です」
「そうなんだ、ボクはアパネ! 見ての通り、狼の獣人さ!」
アパネと名乗った狼娘は元気よく立ち上がる。わりと小柄な体格だ。俺とスティラがほぼ同じくらいの背丈だが、それより一回りほど小さい。
「元気になったようですね」
「お陰様で! そうだ! 二人ともボクの村においでよ!」
「え?」
「ご飯のお礼にさ! 大したおもてなしも出来ないけど、せっかくだから寄っていってよ。転生者の勇者なんて、おとぎ話くらいでしか聞いたことが無いから、皆喜ぶよ~!」
「ふむ……では、お言葉に甘えさせてもらいましょう」
「ショー様? よろしいのですか?」
「連日荷台の上で寝ていてはやはり体に良くはありません。スティラの場合は魔力の消耗もあるでしょう。例えばベッドなどをお借り出来るなら、そこで休むべきです」
「ショー様がそうおっしゃるのでしたら……」
スティラは納得する。彼女の集落を出発してから数日が経過したが、夜は馬車の荷台で寝ている。眠っている間は馬車全体を覆う結界魔法を張っている。スティラの魔力は恐らく相当なものであろうが、流石に毎日だと消耗するだろう。ゆっくり眠れる場所があるのならば、そこで体を休めるべきだ。ここはアパネの提案に乗ろう。
「よし、それじゃあ行こうか!」
アパネの案内で、俺たちは馬車を彼女の村がある方角へ向けて進ませる。
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