ハーメルン
勝ち逃げツインターボ
継がれる想い

 11月後半を迎えたある日、俺とターボは普段どおり……いや、普段以上に気合を入れてトレーニングに臨んでいた。天気はあいにくの雨だが、レース当日空が泣き出すことも多々ある以上、それを理由に走り込みをやめることはない。

 タイムを計測しているコースはいつものガレージではなく、比較的学園の中心部に近い別のトレーニング場だ。我が物顔で陣取っているガレージはそもそも俺が管理手入れしており、かつ他に利用者が居ないために確保出来ているだけであって。学園内のあらゆるコースはどのトレーナーやウマ娘、そしてチームに対しても門戸を開いている。

 10月のアルテミスステークス以来、俺はターボをレースに出走させていない。全ては来月に控える阪神ジュベナイルフィリーズ……初のG1レースに全力を注ぐためだ。この頃走り込んでいるコースも阪神レース場の外回り、芝1600Mを意識して性質が寄ったものを選んでいる。

 第3、第4コーナーが比較的ゆるやかな弧を描いており、そしてゴール前には急坂が待ち構えているこのコースは阪神レース場に臨むためのトレーニングにうってつけだ。脚質上"上がり最速"なんてものは手が届かないだろうターボであっても、同じコースを何度も走り込めば効率の良い走り方に寄せられる。毎回計測している上がり3ハロンのタイムは、着実にターボがG1勝利へ近づいていることを教えてくれていた。

「よしっ! 良い走りだったぞターボ! ゴール前よく踏ん張った!!」

 目前で本日何度目かの計測を終えたターボを労うと、十数秒息を整えたターボはすぐにこちらへ駆け寄ってきて尻尾をブンブン振りながら満面の笑みを見せる。……まるで犬みたいだと思ってしまったことは胸に秘めておこう。

「どうだったトレーナーっ? ターボ速かった!?」

「ああ、坂で足を取られそうになった時もしっかり持ち直していたしな。本番でバ場状態が悪くても勝負できる証拠だ。よく頑張った」

 雨に湿った髪をわしゃわしゃ撫でると、押し返すように前のめりにターボは続ける。

「じゃあじゃあっ、ターボもヒシアマみたいにG1! 勝てるよね!!」
「もちろんだ。ヒシアマゾンにもターボのカッコいいところ、見せてやろうな」
「うんっ!!」

 そう、ターボのルームメイトであるヒシアマゾンは、先日のエリザベス女王杯で見事に連覇を成してみせたのだ。当人の誘いもあり、ターボが直近のレースに参加しないこともあって二人で観戦に向かった京都レース場。

 スタート直後は中団後方に構えて機を窺っていたヒシアマゾンは、レースが中盤を迎えると先行集団に張り付き好位をキープ。第4コーナーを過ぎれば早々に二番手争いを脱して先頭のウマ娘と激しい競り合い……タイマンを繰り広げた。

 レース開幕からその時まで逃げ続けていた先頭のウマ娘――シーズグレイスも強い粘りを見せるが、ヒシアマゾンが少しずつリードを広げた。しかしそれを許すまいと、ヒシアマゾン同様に仕掛けどころを探っていたダンスパートナーが一着争いに参戦。三つ巴の戦いになるかと息を呑んだところでフェアダンスが激しい追い込みで突っ込んでくる。

 トレーナー資格を取得するにあたり、もちろんG1のレースは何度も直に観戦してきた。しかし、当時はそこまで彼女たちの走りに興味はなかった。資格のために必要なその場しのぎの知識を得られれば良いと、出走ウマ娘の脚質とレース運び、その末の結果をデータとして残す程度の意欲でレースを見ていたのだ。

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