第1話【流れて救われ洞窟の出会い】
◇
オボボボボ、溺れ、溺れ……!
み、水……みず!! 流水ヤメて!?
ボク流水弱くてぇ!? がぼぼ、しょっぱ!?
なが、流され……た、たすけ…………い、いや! 高貴なヴァンパイアは助けなど求めん!
誇り高き吸血鬼は、流水なんかに絶対に負けない!!
……ゴメンやっぱムリィー!!
◆
我が主を乗せた船、クイーン・セドナ号が荒れ狂う大海に沈んで幾時か。
我が主、ウルチヤ様は流水に大変弱くあらせられる。嵐の海の荒波に揉まれれば、意識の一つや二つは簡単に吹き飛ばされてしまうだろう。
ボロボロの状態ではありながらも、川辺に流れ着けたのは不幸中の幸いか。先に目覚めた私は、我が主の助けを求め、夜の荒野を彷徨っていた。
ふと、人の気配を感じてそちらに感覚を傾ける。よく聴けば、誰かが会話をしているようだった。
「――我々に残された時間は少ない。それをしっかりと肝に銘じてだな……」
「――大丈夫よ。私が自分の使命を忘れる訳無いでしょう」
「……どうだか。ラーネイレ、君にはお人好しが過ぎる部分があるからな」
「貴方が捻くれ過ぎてるだけよ、ロミアス」
ラーネイレと、ロミアス。
どうやら、二人の男女が荒野を歩んでいるようだ。気配で言えば、結構な手練れ。
会話を聴く限りどこか訳ありな感じはするが、悪人では無さそうだ。
早速、我が主の元へと誘導する為に彼らの目の前に降り立つ。
「……なんだ、コウモリか。敵意は無さそうだが……いささか邪魔ではあるな」
男の方が獲物に手を伸ばす。……ふむ、こういう時に人の言語が話せないのは厄介だ。
ひとまず、良い感じに飛んで全身で訴えを表現する。ボディランゲージは偉大である、らしい。
「……ロミアス、この子……何か急いで伝えたいことがありそうな、そんな感じしない? 必死というか……」
「はぁ……ラーネイレ、君という奴はほんの数刻前の私の言葉を忘れたというのか」
「……でも、何だか助けて欲しそうだわ」
やはり肉体言語は偉大だった。
ラーネイレと呼ばれる女性には、しっかりと伝わってくれたようだ。男の方も、渋々ながらも付き合ってくれそうな雰囲気である。
このまま、我が主の元へと飛んで誘導しよう。
「ついて来い、ということか? ……まったく、厚かましいやつだな」
「行くわよ、ロミアス」
「……仕方ないな」
――こうしてコウモリに案内されるがまま、瀕死で流れ着いた我が主を見つけた二人の男女は、近くの洞窟へと我が主を連れ抱え入っていくのであった。
……はあ、何だか……私も疲れました……。
少し私も眠りにつくとしましょうか……。
どこか血の匂いを感じる洞窟の中で私は、我が主の中で羽を伸ばし、暫しの眠りにつくのであった。
◇
海が荒れる、風が吹き付ける、波が襲う……。
全身が流れる海水に侵され、強い苦痛を与え尽くす。ああ……。りゅうすいこわい。りゅうすいこわい。りゅうすいこわい……。
「……はっ!?」
「……目覚めたか。君が異常な程に回復力の強いヒトで助かった。我々の時間は限られているからな」
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