ハーメルン
鶏が先か、卵が先か
ヒールはだーれだ

 授業中にも関わらずガヤガヤ煩い生徒たちを一切相手にせず、滞りなく先生は講義をしていく。この光景もここ数週間……もう3週間か。すっかり見慣れてしまった。今じゃ真面目にしている方が少数派だ。
 かく言う私もその少数派には入っている。後で責められる理由を作らないことに越したことはない。
 授業中平気で会話するキャピキャピ女子グループに、堂々と遅刻してくる須藤くん、に話しかける池山内。問題はこれだけではない。
 私語は当然として、居眠り、スマホ弄りなど、まあそれはひどいものだ。知っていたが実際目にすると普通に引く。高円寺くんが真面目に授業受けているのがバカみたいだろ!

 3時間目。茶柱先生が小テストを行うことを宣言し、ついにこの時が来たかと内心で覚悟を決めた。
 小テストの内容は遥かに簡単で、そして最後の3問はとんでもなくえげつない。もちろんスルーし、簡単な問題だけ解答欄を埋めた。
 あとは座して待つのみ。後にこの教室を包むであろう阿鼻叫喚も同じく、だ。



 朝から清隆くんと二人で作ったお弁当を食べ終え、私たちは何か飲み物が欲しくなり自販機に来ていた。其処にいたのは3バカである。
 並んでやってきた私たちを見て、なんというか、複雑な顔をした。代表して池が声をかけてくる。

「なあ、綾小路……お前、水元さんとは本当に付き合ってないんだよな?」
「なんだ急に。前にも言っただろ、付き合ってないぞ」
「そうだよ。付き合ってないよ」
「じゃあなんで手繋いでんの!?」

 あ。指摘されて手を軽く振って離した。

「ほら、手繋いでないでしょ」
「離すのが遅いわ!! 疑惑深めてる理由わかってんの!?」

 池のテンションがおかしくなってる。目を剥き出しにして掴みかかる勢いで清隆くんに迫っているのが面白くて、つい声をあげて笑った。
 ハッとした顔をし私を見れば、その顔にパッと赤が散る。そしてすぐに青くなった。清隆くんに向かって全力で首を振っている。

「違う違う違うからなッ! 何も思ってない! 何も!」

 清隆くんが挙動不審な池を見やってため息をついた。

「別に、何かしようとか思っていない。それより自販機に用事があるんだ。通してくれ」
「お、おう! 水元さんもごめんね!」
「全然。気にしなくていいよ」

 女子耐性のない池くんは女子を前にしたらすぐに顔を赤くするから、私を前にしてもよく赤くなっている。そして隣の清隆くんを見て顔を青くするまでがセットだ。何か脅されでもしているんだろうか。脅すことある?

 道を避けてくれた池の横を通り、自販機の前に立つ。順に見ていって、『弾ける炭酸ゼリー飲料! 上下に振って飲めるようになる不思議な飲み物』というのを見つけた。清隆くんにこれでいい? と確認し、首肯が返ってきたのでさっそく買う。
 ブンブン上下に振り回しながら頃合いを見てプルタブを持ち上げる。小気味のいい音がして蓋が開いた。
 ぷるぷるしたゼリーの食感……確かに炭酸が効いていてシュワッとする。味はブドウ味だ。なるほど、悪くないな。
 半分ほど飲んでから、清隆くんに缶を手渡した。受け取って清隆くんも口をつける。口に含んで一発目にくる炭酸に一瞬肩をビクつかせたが、その後は落ち着いたのか美味しそうにコクコク飲んでいた。

「悪くないな」

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