ハーメルン
Re:escapers
Re:こんにちは農業高校

 トンネルを抜けると、そこは藁の上だった。

 ……はて? どう見ても馬小屋なのだが。
 一体、これはどういう事なのだろうか?

「おお……今年は、凄いのが生まれたなぁ」

 は?
 改めて、我が身を顧みると……馬だった。

「尾花栗毛って……ホントに居るんですね」
「うわぁ、キレイだなぁ……」

 むう……何が悲しくて畜生道に堕とされねばならんのかは知らんが。
 ……とりあえず、腹が減ったので、乳をのまねばならん……

「あ、立った」
「早いなぁ……確か、父父のルドルフも10分で立ったって聞いたけど」

 ルドルフ?
 ルドルフって……誰?
 まあいいや、とりあえずごはんだ、お乳だ。



『……なんで、学校に馬が居るんだろう』

 どうやら、農業高校らしい事は分かった。
 だが、私はどう見ても、サラブレッドである。
 それも、大変珍しくも美しい、尾花栗毛という毛並みの馬らしい……自分で鏡を見てみたが、なるほど、スラっとした毛並みに金色の鬣と尻尾は、我ながら可愛いと思ったわ。

 そして……

『……いもーと』

 ペロペロと毛づくろいしてくれているのは、どうやら一つ上の私の兄らしい。
 何でも、セールで売られた二つ上の兄から可愛がられて、育ったようで。
 なので、自分もお兄さんなのだから、弟か妹が出来たら可愛がるのが使命だと思っているようだ。

『遊ぶ? 走る?』
『うん』

 一緒に走ったり、毛づくろいされたり。
 そして、母親に母乳をもらったり。
 ……なんか、人間だった頃よりも、人間らしい扱い受けてる気がするなぁ……
 叩かれたり無視されたりして、愛情らしい愛情を受け取った覚えなんて無かったし。

 ……あ、そうか。私、あの時に死んだんだ……
 食べ物も貰えないまま放っておかれて、がりっがりになってボロアパートの一室でそのまま……やめよう。
 今、周囲に愛されている、この幸せをかみしめよう。

 ちゃんと愛してくれるなら、人間より馬のほうがまだいいや……



「蜂屋先輩たちの馬、今日福島でデビューだって?」
「ああ、ちょっと遠いけど見に行きたかったなあ……」

 ある日。
 世話をしてくれている生徒たちが騒がしい。
 ……どうも、この学校出身で、デビューした馬が走っているらしい。

 見たい。
 ので、脱走して、教室の外からテレビを眺める。

『迫る! 迫る! 迫るがもう届かない!! 完全に持ったままのセイフティーリード! バーネットキッド、ゴール!! 1分7秒9! 二着はマイネルレコルト!!
 新馬戦、大逃げレコード更新!! 二着のマイネルレコルトも本来ならレコードタイム! なんという馬だ! なんという馬たちだ! 新馬戦とは思えない勝負になりました!!』

 沸き上がる教室。
 歓声があがり『次は俺たちも…』という声が続く。
 だが、それよりも……

『同じだ……』

 ゴールを駆け抜けた馬の影に……騎手とは別の、背後霊のようなモノを見た私は。
 直観的に、同族だと察知したのだ。


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