10 卒業
「勝っ、た……?」
「くっそ、オレの負けだ」
時が経ち、8歳の誕生日を迎えて少しした頃。
私はギレーヌの使っていた必殺技の劣化版みたいな技をようやく習得し、それを見た師匠に卒業を賭けた真剣勝負を持ちかけられた。
本気で私を殺す気なんじゃないかってレベルの、かつてないほどの気迫を漲らせて襲いかかってきた師匠。
剣神流の技、水神流の技、冒険者として磨いた狡猾な立ち回り、更には姑息だから嫌いって言ってた北神流の技まで存分に使って、師匠は本気の本気で私を倒しにきた。
その師匠を、私は激闘の末に倒した。
紙一重だった。
身体能力的には生まれついての体質もあって互角だったし、単純な技の精度でも師匠と互角と言えるレベルまで私は成長したけど、実戦経験の差だけはどうしても大きく劣り、戦いは終始私の劣勢だった。
ギレーヌから盗んだ技が無ければ、間違いなく負けてたと断言できる。
だけど、勝利は勝利。
私は今日、師匠を超えた。
「あー、くそ。負けたってのにあんま悔しくねぇや。闘争心が衰えてるのかね。
オレも歳を食ったってことか。昔はお前みたいな才能の塊見たら嫉妬しか湧かなかったのになぁ」
地面に大の字に寝転がり、嘆くような口調だけど、どこか清々しい顔の師匠。
そんな師匠に対し、私は自然と口を開いていた。
「多分、師匠が、悔しく、ないの、私の、剣が、師匠の、剣だから。
師匠は、私に、負けたんじゃ、ない。
剣士と、しての、師匠を、師匠と、しての、師匠が、超えたんだと、思う」
私の言葉に、師匠は目を丸くした。
これは紛れもない私の本心だ。
私の根幹を支えてるのは、師匠から教わった剣術だ。
前世で培った剣道という土台と、魔眼っていう才能を受け皿にして教え込んでくれた師匠の剣が私の根底に根付いて支えてる。
盗んだギレーヌの技だって、ベースになったのは師匠から教わった無音の太刀だ。
「私が、凄いんじゃ、ない。私を、強くした、師匠が、凄い」
そこまで言ってから、私は師匠に向かって深く、深く頭を下げた。
「ありがとう、ございました。私を、ここまで、強く、してくれて」
心からの感謝を込めて、心からの尊敬を込めて、師匠にお礼を言う。
そんな私を見て、師匠はちょっと目を丸くしてから、照れたような顔で私の頭を撫でた。
「なるほどな。言われてみりゃ、お前の動きにはオレの面影ばっか見えたわ。
自分が1から育て上げた弟子が立派になってくれたんだ。そりゃ師匠として、悔しさより嬉しさの方が先に来るよな。
……こっちこそ、ありがとなエミリー。お前みたいな奴の師匠になれて幸せだったよ」
「師匠……」
「卒業おめでとう。だけど、お前はまだ剣術でオレを超えただけだ。実戦では剣術だけじゃどうにもならないことも多い。
罠にハメられて、剣を振るう前に負けるかもしれない。あるいはもっと簡単に、寝首をかかれてそのまま死ぬかもしれない。
こうなったら、そういう時の戦い方までオレが知ってる全部を叩き込んでやる。
そもそも、お前にはまだ魔物との実戦とかもやらせてなかったしな。剣術部門は卒業だが、まだまだ学ぶことは多いぞ。覚悟しとけ」
「はい!」
そうして、私は師匠の修行剣術部門を卒業し、剣士として大きな一歩を踏み出した。
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