4 VSパウロ
「最初は好きに打ち込んで来なさい。さあ、いつでもいいぞ?」
では、お言葉に甘えて遠慮なく行かせてもらおう。
私は仕掛ける前に軽く目を閉じて集中し、師匠の動きを思い出した。
そして、自分の動きのイメージを師匠に合わせる。
この世界の剣術を自分の動きの芯に据え、今はまだ不確かなイメージでしかないそれを剣道の経験で補完する。
「行き、ます」
宣言し、剣道の中段に似た構えから、左足に力を込めて加速。
5歳の幼女でありながら、生まれついての体質と、生まれてからずっと続けてきた筋トレによって既に前世を遥かに超える身体能力を持つ私の体は、たった一歩で数メートルはある師匠との間合いを詰めた。
「なっ!?」
そして、木剣を斜めに一閃。
動きのモデルは、昨日ターミネートボアを一撃で仕留めた時の師匠だ。
「ッ!?」
師匠は私の予想外の速さに驚愕しながらも、しっかりと自分の木剣で私の一撃をガードした。
更に、剣から伝わってくる、ぬるりとした嫌な感触。
ルーデウスにも使っていた受け流しの剣技だ。
剣閃が逸れる。
体重の軽い幼児の体は、その勢いに持っていかれそうになる。
でも、下半身の安定は剣道の基礎。
師匠の剣術を模倣しながらも、無意識の内に染みついていた癖のおかげで、体勢が崩れることは免れた。
しかし、そこに降り注ぐ師匠のカウンターの一撃。
意表を突いたはずなのに、受け流しから反撃までの時間が驚くほどに短い。
多分、頭で考えるより先に反射で動いてる。
その証拠に、師匠の顔は「やべっ!?」って感じになってた。
友人の娘を傷物にしたらと思うと、そりゃそんな顔にもなるよね。
私はその攻撃を咄嗟に横に飛んで避ける。
余裕を持った回避なんかじゃない。
型も何もない必死の動きだ。
そうしないと避けられないくらい、師匠の太刀筋は鋭く速かった。
そんなザマだから当然、着地もろくにできずに地面に転がる。
だけど、追撃は来なかった。
あくまで稽古だから、そんな容赦ないことする気はないのかもしれない。
なら、
「バッと、動いて」
模倣する。
さっき見た師匠の動きを。
岩を粉々にした連続斬りを。
「バババッ!」
「うおっ!?」
右眼に焼き付いた師匠の技を、剣道で培ったセンスに任せて無理矢理真似る。
ぎこちなくて不出来なモノマネだと自分でも思うけど、それでもこの借り物の技は、今まで自分が使ってきたどの剣技よりも強いと確信できた。
多分、師匠のように岩を粉砕するのは無理でも、大木くらいなら斬れるんじゃないかと思う。
間違いなく今の自分の限界以上を引き出せた会心の一撃だ。
それでも、━━当然、師匠には遠く及ばない。
「ハッ!」
師匠は私の技の全てを完璧に受け流し、私の攻撃が途切れた瞬間に、ルーデウスにしたのと同じように私の木剣を弾き飛ばした。
そのまま、木剣が私の首筋に突きつけられる。
こうなったら、もう詰みだ。
これが実戦なら、ちょっとでも動いた瞬間に私の首が飛ぶ。
ゲームセットである。
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