8 VS『剣王』
敵を排除しなければという想いに突き動かされて、私は持ってきた訓練用の木剣を振るう。
剣を上段に構え、真っ直ぐに突っ込んで斬る!
「ふっ!」
しかし、そんな単純な戦法が遥か格上の獣人剣士に通用するはずがない。
獣人剣士は目にも留まらぬ速度で鞘から刀を抜き放ち、居合抜きみたいな形で私が振り下ろそうとする剣の軌道上を薙いだ。
闘気を纏った木剣が簡単に斬り裂かれ、切っ先が宙を舞う……ことはなかった。
何故か?
そもそも私は、剣を振り下ろしていないからだ。
「ぬ!?」
北神流『幻惑歩法』!
師匠はなんか北神流が嫌いみたいで教えてくれなかったけど、師匠の動きには度々他二つの流派にはない、奇抜だったり相手の裏をかいたりするような技があったから、見て覚えた。
これもそんな技の一つで、前に進むと見せかけてその場で止まり、剣も振り下ろすと見せかけて止めることで、敵の目測を誤らせる技。
ぶっちゃけ、ただ高度なだけのフェイントだ。
もっと極めれば変幻自在で予測不能の動きができるらしいけど、それは上級の師匠ですら完璧にはできないので遥か先の課題。
けど今は、こんな拙い技でも充分。
多分、相手が私を子供と思って舐めてたおかげだと思うけど、それでもなんとか虚は突けた。
油断によって見せた強者の隙。
そこに渾身の一撃を叩き込む!
剣神流『無音の太刀』!
速さを至上とする剣神流の必殺剣。
風切り音すら置き去りにする音速の太刀が、刀を振り抜いてしまった体勢の獣人剣士の頭に迫る!
「ハァ!!」
「!?」
しかし、獣人剣士はなんと、完璧なタイミングのこの一撃を防いだ。
右手で振り切ってたはずの刀へ瞬時に左手を伸ばし、両手で握った刀で、目にも留まらぬ二の太刀を振るうことによって。
超高速の斬撃が今度こそ私の木剣を半ばから断ち切る。
信じられない……!
音速の太刀が後出しで斬り伏せられるなんて……!
この人の太刀は光速か!?
でも、まだ終わってない!
私は更に一歩前へ踏み出し、小さい体を活かして獣人剣士の間合いの内側に踏み込む。
これだけ接近すれば、向こうは刀を振るえない。
だけど、私の方は子供の体格と斬り飛ばされて短くなった木剣のおかげで、むしろここが絶好の間合い。
無音の太刀を振り切って下段へ行っていた木剣を振り上げ、斬り上げるような斬撃で獣人剣士の脇腹を打とうとして……
当たり前のように対処された。
獣人剣士はバックステップで後ろに下がることで刀の可動域を確保しながら、私の無音の太刀を迎撃して斜め下へと流れていた刀を振り上げてくる。
狙いは私の両腕。
両腕を斬り飛ばすつもり……いや刀の峰を使ってるから叩いて折るつもりか。
だけど、本来とは違う振り方をして僅かに速度の下がった攻撃なら、なんとかなる!
水神流奥義『流』!
受け流しとカウンターに特化した水神流の基礎にして奥義である技。
獣人剣士への攻撃を中断し、向こうの攻撃にぶつけるようにして放ったこの技が、獣人剣士の太刀筋を歪める。
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