ハーメルン
未完の神話 / Beyond the Ruminant
03
■
目が醒めた。
「はぁっ……はあっ、はあっ……」
自身の喘鳴が、鼓動が、やけにうるさく感じられる。それは、世界が静寂に包まれているからであった。
ネプテューヌは、祈るような思いで自分の手のひらを目の前に掲げる。しばらく待つと、ノイズが走ったかのように輪郭がブレた。背中が汗でじっとりと濡れる感覚がする。
アレが夢でも幻でもない事は、最早明らかだった。理由は分からないが、戻ってきている。世界が崩壊する、その直前に。
今でも耳の奥で生々しく響く轟音が、目の裏に焼き付いた崩落が、夢幻の類だとはとても思えなかった。予知の類でもないだろう。あれは、確かに現実だったのだ。
時計を見る。こんな時でも律儀に時を刻むその針は、七時と十九分を指している。まだ、崩壊までには時間があるはずだ。
他の女神に連絡を取ろうかと考えて、すぐにやめた。それでは、先程と同じ末路を辿るだけだ。もう、二度も自分の体が潰れる感覚を経験した。三度目は無い方がいいに決まっている。
ネプテューヌは起き上がると、軽く跳ねて体の調子を確認した。頭はふらつくし、体は怠い。本来国中から供給されるはずのシェアが失われているためだろう。しかし、全く動けない程ではなかった。短時間であれば、女神化もできるはずだ。
武器を取り出し、振ってみる。いつもより重く感じられる以外、特に異常はない。
「これなら——」
「お姉ちゃん!」
呟き掛けたところに被せるようにして、叫び声が聞こえた。直後、部屋の扉が開く。
視線を向ける。いかにも寝起きですといった様相のネプギアが、焦り顔を携えて立っていた。
「大変だよ! みんな、いなくなっちゃった!」
その言葉に既視感を覚え、ネプテューヌは首を傾げる。そうだ、同じなのだ。一度目、自分とイストワールに向けてネプギアが放った言葉と。
もしや、とネプテューヌは目を見開く。
「ネプギアは、覚えて、ないの?」
「覚えてって……何、を?」
それが、明確な答えであった。
思い出す。電話越しのノワールもまた、あの大地の波を知らない様子であった。一度経験したのなら、忘れられる物ではないだろうに。
それは、つまり。
「私だけ……なの?」
覚えているのは、ネプテューヌだけ。
どうやら、そういう事らしい。
「お姉ちゃん? 何が起きたか、知ってるの?」
「ううん。分かんない。でも、これから何が起きるかは知ってるよ」
ネプテューヌは、手にした剣をぎゅっと握り締めた。
「私は、この国を守らないと。だから、行かなくちゃ」
「なら、私も行くよ!」
まだ事態を飲み込めてもいないだろうに、健気にもそう言い放ったネプギアを、ネプテューヌはそっと押し留める。
「ううん。ネプギアは、いーすんの事を守ってあげて」
「でも……」
「大丈夫。私は、守護女神なんだから」
ブランの言葉を思い出す。『私は、私の国を守る……。それが守護女神としての、義務だ』。確か、そう言っていた。
国に災厄が齎されるのであれば、それを消し去る事こそ守護女神としての義務である。ネプテューヌもまた、ブランと同じなのだ。国が崩壊するのであれば、そうならないように戦わねばならない。
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