トレギア、運命を検証す
地球を回る衛星、月は良いものだ。
月の光は暖かみこそないが、不思議な優しさを覚える。しかし地球の信仰には月は狂気を促す魔力が宿るという。ならば俺が抱く感傷はなんなのだろうか。単なる俗説に過ぎないのか、本当に魔力が宿っているのか。
ただ間違いないのは、惑星から見上げる衛星はいずれも美しいということか。
月と見つめ合う。
月光を受け入れる。
…………月では詩が浮かばないな。やはり太陽が一番だ。
月への考察を切り上げ、ほう、と息を吐く。
深淵を覗き過ぎてはいけないように、月も見つめ過ぎてはいけないと実感した。別に狂気に触れる恐怖を覚えたからではない。タロウとの冒険を思い出して寂しくなったからだ。
「まぁ、美味しいものを食べた故の情動とも言えるな」
郷愁をもたらす月から目を逸らし、夜道を歩きながら先に味わった夕食に意識を向ける。
中華料理玉蘭……良いお店だった。こうして思い返すとじんわりとした満足感がある。少し凍えていた心が安堵するように落ち着くのを感じる。暖かい料理に、ちょっとした心配りが嬉しい店員の優しさ。振り返るだけで得られる熱。これが人間の光なんだな、タロウ。
「(^∀^♪」
なにやら体内にいる邪神が上機嫌なように感じる。
存在し得ないはずである邪神の意志をぼんやりと感じるのはなんとも不思議だが、俺の感性が無理矢理理解しようとして生み出している幻覚とは思う。思うが……ふむ、グリムドも美味しかったのだろうか?
転移同化直後こそキレ散らかしたが、全ての元凶は闇堕ち俺の仕業だし、元の宇宙に帰るためには力は必須だし、と邪神の扱いを改めている。無論しつこいようだが、こいつに知性体が解釈できるような意志や情動はないはずなので、闇堕ちトレギアのように潰える時まで利用しつくすのが正しい扱いなのだろう。だが、俺はそもそも契約すらしてない立場だ。同一人物扱いだから、まだ闇堕ちトレギアが内にいるから、契約適用されているだけである。怒りは未だにあるが、付き合い方は意識するべきだろう。それが力を借りている者としての最低限の礼儀だ。
「もし食事が美味かったとグリムドも感じているならば、お供え意識して食べるということでいいのだろうな」
前世記憶から引っ張り出した神々との付き合い方(ソースはサブカルチャーなど)で「気持ちが大事だ」「荒魂にも礼は尽くすべき」などといった情報から、先程の食事ではグリムドも楽しんでほしいと思いながら味わっていた。
幻覚だとしても効果はあるようなので今後もそうしよう。考えてみれば、闇堕ちトレギアは自らを生贄に捧げつつも、呪法とウルトラマンの力をフル活用して邪神の力を全部体内に封印、獲得しているのだ。これ、ちょっとした詐欺じゃなかろうか。安住の地で微睡んでるところを叩き起こされてこき使われる……俺のせいじゃないけどなんか申し訳なくなる。
「(・ω・)?」
「ふ……考え込むのは昔からの悪癖だな。それよりも次だ次」
そう、次の計画である。また前世記憶からあらすじを引っ張り出してみよう。
前世記憶が眠る位置からつまむような感覚で引き出せば脳内に文字が浮かんでくる。
【18話・新しき世界の為に】
【ある日、休暇を満喫していたホマレは、偶然地球人に扮した宇宙人・小森セイジ(バット星人)に出逢う。棲みづらい地球での苦労を分かち合えた彼らは、この縁を喜び意気投合。しかし小森は地球における宇宙人の境遇に不満を抱えており、未だ表向き受け入れを認めていない地球人に対して憤りを覚えていた。その不満の爆発を後押しするようにトレギアによってゼットンを与えられていた小森は、ホマレや同居している水野ヒトミ(ピット星人)の制止も振り切り、ついに革命と称してゼットンを君臨させてしまった】
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