ハーメルン
自分の事を主人公だと信じてやまない踏み台が、主人公を踏み台だと勘違いして、優勝してしまうお話です
13話 月下アーサー

 真っ赤な水溜まりが出来ている。それはもう血の池とでも言えるのではないかとおもえるほどに大量の血が地面に迸っている。

 血、血、血、その真ん中で一人の少女が立っていた。眼が虚ろで絶望の血の海に膝を折る。

 血の海に波紋が広がって行く。彼女を中心にどんどんと広がって行く。それに引き寄せられるように何かが彼女に近寄って行く。


「か、え、して……」
「いた、い……」
「か、えして」


眼が消えてしまったとある二人の女性。心臓部に穴が開いた女性。血だらけの三人が金髪の少女に縋るように寄って行く。

気付けば、少女の周りには死体が数多存在していた。吐き気がする、めまいがする、耳を塞いで、眼を閉じて、ただ、ただ、ふさぎ込む。

殺した、殺した、殺した、殺して、奪って、彼女は生きている。真っ赤な自分の手、綺麗な体も血で染まり、生暖かい血が全身に染みこむような拒絶感を感じる。

耳を塞いで、眼を閉じても、心が覚えている悲鳴が己の中でこだまする。瞼の裏に縫われた血まみれの少女の姿が想起される。


「え、いゆうに、ならなきゃ……ワタシは、それまで、死ぬことも……」


呪いのように呟いて、己を保つ虚言のように呟いて、彼女は、アーサーは眼が覚めた。冷や汗で体が濡れて、悪夢を見た事で精神がやつれている。

「……」


円卓の騎士団の女性専用寮。その二階で彼女は眠気が消えた体を起こし、窓から自身を照らす月を見る。

彼女は月は嫌いではない。何だか、あの光に照らされていると自身も綺麗になるような気がするから。

ぼうっと、月を見上げる。ただ、只管に。眠気は湧いてこない。何も考えずにただ、見上げているまま時間が過ぎていく。

閉めきった窓を開けて、風を感じる。汗が少し乾いて、気分が落ち着いてくる。だが、それでも何だか、落ち着きは完全ではなかった。

彼女は寮を出た、風に当たりながら王都を歩きたかったから。ただの気分転換。少しでも悪い何かを思い出したくはなかった。もう少しで、仮入団が終わるらしい。だから、訓練もますます過酷になっている。

明日も訓練があり、その為には万全のコンディションで臨むことが求められる。睡眠をとらなくてはならない。だから、少しだけ外に出た。少し、体を使って気分も変われば眠れるはずであると彼女は考えていたからだ。


人が居ない。人の音がない。王都を歩いて、彼女は何だか、自分が一人のような気がしてしまった。

だが、それは当然のことであるとも割り切った。


行く当てもなくただ、歩いた。気付くと、自身の足がいつもの訓練場に向かっていると彼女は気付いた。荒野を歩く。誰も居ない、ただ風だけが……


――吹いていて。でも、誰かがそこに居た


雲によって、そこが隠れているからよく見えない。だけど、彼女はそこに近づいてしまった。風が吹いて、雲が動く。次第にそこが月によって明かりを帯びていく。

「フェイ……」
「……アーサーか」

そこには、フェイが居た。同じ隊の仲間と言っていいのか彼女には分からないが、それでも見知った仲である。

興味なさそうに彼女の声に反応し、こちらに目を向けることもなくただ、背中をこちらに見せている。

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