ハーメルン
『書籍化!』自分の事を主人公だと信じてやまない踏み台が、主人公を踏み台だと勘違いして、優勝してしまうお話です
13話 月下アーサー
「どうして、ここに居るの?」
「……それを話す必要があるか?」
「なんとなく知りたいから聞いた」
「……訓練だ。今は少しだけ、呼吸を整えているがな」
いつものように感情を感じさせないフェイの言葉に自然と安心感を彼女は感じていた。互いに低い声のトーン。機械同士の会話に聞こえる者も居るだろう。
ただ、彼女はそれが気に入っている。
なぜだが分からないが、同じように物静かな感じが、異端な感じが気に入っているのだろう。
今も、気持ちが落ち着かなかったがどことなく、不思議と満たされているような気がしていた。
「フェイは……どうして、そんなに強いの?」
「……それは嫌味か?」
「……違う」
「……ふんッ、いつも俺を圧倒する貴様にそんなことを言われても嫌味にしか聞こえんがな」
「……嫌味じゃない」
フェイは不機嫌そうに鼻を鳴らし、彼女を見ずに低い言葉で強気の姿勢を見せる。フェイからすればいつも自身をこれでもかとボコボコにするアーサーにそんなことを言われれば嫌味に聞こえても仕方がない。
「ワタシは弱い……フェイの方がきっと強い……ワタシなんて、ズルだから……」
言葉がどんどんしぼんでいった。その言葉には嘘など無く、己を見つめてただ悲しくなったアーサーの本心。無機質で整っている顔が悲しく、萎れた花のように見るに堪えないものになっていく。
彼女は顔が整っているから余計に、その表情を見た者は同情心がわくだろう。何か優しい言葉をかけなくてはと思う事だろう。
だが、フェイから出た言葉はそれとは真逆とも言っていいものであった。
「……気に入らん」
その声は、夜に響いた。彼女の悲壮な言葉と裏腹に苛立ちが籠った言葉。
「え?」
「貴様は気に喰わん。俺達の部隊で最も強いお前がそんな言葉を吐くな。お前は強者なんだ。上でふんぞり返るくらいしたらどうだ」
「……でも」
「ふん、まぁいい。少し、付き合え」
そう言ってようやく彼女の方を彼は向いた。そして、予備の木剣を投げる。アーサーはそれを右手で受け取る。
「……別に良いけど」
「いつも通り、来い」
その言葉と共に最初にアーサーが動いた。右斜めからの斬り下ろし。それを読んでいたと言わんばかりに無表情でフェイが防ぐ。
だが、そこから更にアーサーの剣が加速する。淀みなく一定の間隔を置き徐々に速度を上げていく。ウォーミングアップを兼ねた剣。それを感じたフェイに再び怒りがわく。
フェイは元々体は温まり、筋肉もほぐれていた。疲れは溜まっているが、アーサーよりは調子が整っている。そのはずなのに、アーサーに押されているからだ。
いつものように、彼の剣が空を飛ぶ。
「っち、貴様の勝ちだ」
「……うん」
「言いたくはないが、圧倒的であった。俺とお前とでは天と地の差があるだろう」
「……」
「これでも、まだ弱いと言うつもりか」
「……ワタシは、それでも」
「戯けが……。勝者の貴様が己を弱いだと? ふざけるのも大概にしろ。貴様は俺に勝ち、トゥルーに勝ち、ボウランにも勝った。貴様に負けた俺達は何になる」
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