カイマクルの鬼
前略、私、鬼になってしまったようです。
私自身、鬼になるまでは大正時代の中流階級で普通に生活していました。少し違う点と言えば、東京の中でも田舎方面に実家があり、かつ我が家が結構な土地を所有している地主にあたる家庭だった事くらいでしょうか。
はーー、例え、田園風景が広がっていようとも、鬼の頭領鬼舞辻無惨の本拠地。
まさか、女学校からの帰り道で無惨の気まぐれから鬼にされてしまうとは。
ん?なぜ、鬼にされたのにこんなに冷静なのかって?
それについて話すとなると鬼化までの時間まで遡る。
カランカラーン
カランカラーン
「はい、今日はここまで。裁縫の宿題については明後日の授業にて、クラス内で見せ合うので、柄に関しては指定はしません。
それと本日をもちまして、桜井さんはご婚約が決まりましたので、中退となります。
桜井さん、良き妻、良き母となるのですよ。」
「はい、先生!」
パチパチパチパチ
「おめでとう、桜井さん!」
「まあ!ついに決まったのですわね。お相手は華族と聞きましたわ。おめでとう。」
「もしかして、あそこの車は桜井さんの迎えかしら。」
「おめでとう!桜井さん!」
「ご祝儀は弾むわ!」
「おめでとう」
「ご婚約とは、誠にめでたきこと。」
私達は、女学校の2年生。元々学校を卒業したら結婚。女学校の卒業を前にして、婿の家に花嫁修行をするために中退と言うのも珍しい話ではない。
でも、華の18歳で家庭に入り、自由もなく夫とその家族に仕えるなんて味気ない。と感じる私は、かの平塚らいてうのような異端な女に該当されるのだろうな。
まぁ、私は彼女のように強くもないから、この心は家族の誰にも話すこと無く、“普通の道”を進んで、死ぬのだろう。
思ってもいない祝福の言葉をクラスメイトと一緒に贈りつつ、私は友人達と甘露屋で餡蜜と団子を食べつつ、ガールズトークをして1人で自宅に帰っていた。
「ん?生臭い?」
八百屋なんてない帝都の中心地で、血の匂いがする。お肉の匂い?にしては焦げた匂いは一切しない。
「ここからか?」
路地裏から匂いが濃くなっている。
いくら東洋のパリと言われようとも、表通りと裏通りで貧富の差は見られる。そして、裏通りは治安が悪いことでも有名だ。
でも、万が一この近くで死体があったら、
人が倒れていたら、
もしもそれが子どもだったらと思うと、私はあまり奥には行かないと決めつつ、路地裏へ道を進めてしまった。
ざっ
ざっ
「夕日が落ちそう…、匂いは強くなっているけど、ここまでが潮時か…。」
路地裏だけあって、私の周辺はもう影がかかっていた。
「何が潮時ですか?」
後ろから急に男の声が聞こえた。
「えっ!」
バッ
「あ、あなたは…?」
後ろにいた男は、洒落たスーツを着た赤い目が特徴の肌が白い、いかにも富裕層です。といった姿だった。
でも、この男…、目が…光って見える?
「も、モノノ怪…!」
つい、そう言ってしまった私に、さっきまでは柔和な紳士然とした男は、顔色を変えた。
「ほう…、この姿をした私を相手にモノノ怪と言う女がいるとはな。なるほど、面白い。
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