ビター・ゾーン(Ⅱ)
アンヌの私室で俺達は談笑する。
「アンヌさん、ダンさん。そしてソガさん。ワタシは地球人はもっと恐いものだと思っていタ。こうして、命をとり止めることができたのは、アンタ方のあたたかい思いやりのおかげダ。アリガトウ……」
「君はどこから来たんだ、教えてくれ」
「何も言えナイ。宇宙のある町から来タ、とだけいっておくヨ」
「宇宙人なんだね」
「ハハハ、へりくだるなヨ。地球人だって立派な宇宙人じゃないか。わが宇宙には、一千億の太陽をかかえた銀河系のような島宇宙が、1762億4321万866もあるんダゼ?」
「へぇぇ……計算したのか?」
「ああ、みんな同じ宇宙に住む仲間同士さ、ハハハ……そのことがアンタ方と付き合ってよくわかったヨ。ホントにいい人なんだなアンタ方は……」
「そんなに褒められちゃあ、地球星人としても悪い気はしないね」
一つの部屋の中で、4人の宇宙人が打ち解け、笑いあう。
「……しかし、皮肉な話ダ」
「何が?」
「こんな大きな宇宙の中に、地球とワタシたちの町が、一緒に生きることの出来る場所がないなんて、なんという悲しいことだダロウ……」
「君、何のことだ?」
ダンは彼の不穏な言動を訝しみ、カップを置いて聞き返す。
だが、影はそれを誤魔化して、不自然に話を逸らす。
「いや何でもナイ。さっき、眠ってしまって、夢を見たんダ……。ああ、ノドが乾いた……」
「今あげるわ」
「しかし本当に水をよく飲むな、お前さんは」
そう言いながら、俺達三人は視線を逸らす。彼が来てから何度も繰り返された行為であるから、慣れたものだ。この宇宙人は水を飲むところを見られるんが恥ずかしいらしい。シャイなやつだ。
あの後、救急セットや薬品なんかも提供しようと言ったんだが、それらは全て断った彼が、その代わりに水だけは沢山くれと受け取るのだから、とりあえず近場の飲料水をかき集めてきた。
「ああ、我々の体は、内部の水分含有量がとても多くてネ……傷を癒すにも、この空間を生み出すのにも大量に使うんダ……でも、キミが最初にくれた水で、地球の水分も問題無く使えるという事が分かった。沢山使えるおかげで、思っていたより傷の治りが大分早いんダ。重ねて礼を言うヨ、ソガ隊員」
「いやなに、事故で漂着した怪我人には、水を渡すのが鉄則さ。なにせ、生命の源だからな」
「生命の源か……確かに、この宇宙に生きる無数の生命体モ、過半数ガ水分を必要とスル……宇宙の約半分くらいは、皆ただの水の集合体なんダナ……」
「そうよ、例えみんな顔が違ったって、水でできてるのはみんな一緒なのよ」
ダンとアンヌがしきりに頷いている。
俺としては半分くらいは水が要らないって聞かされて、そっちの方が衝撃なんだけど。
「そうだお前さん、名前は?」
「名前……?」
「いつまでも【お前】じゃあ座りが悪い、俺達ばかり名前で呼ばれてさ」
「しかし……我々の都市ではお互いの生活が見事に管理されているから、そのようなものを使わナイ。生活局から割り振られた番号さえあれば、全て事足りるんだヨ」
「じゃあ、その番号は何番なの?」
「そうだね、君たちの言語に照らし合わせると……Ⅾ区画の9ライン……Ⅾ9といったところか」
「でぃーきゅー? それじゃあ……ダークだ。真っ黒のダーク。どうだい、かっこいいだろ」
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