序-7
「そういえばシンジ君から『転校初日で身分がバレてるんですけど』って苦情があったそうじゃない?」
「まぁ一応諜報部とか保安部には連絡したけど、流石にまあ第壱中学校の生徒となると知らないって方が無理ではあるわよね」
そんな会話をNERVの長距離移動用リフトで交わすのは、リツコとミサト。
彼女が言う通り、シンジの通う第壱中学校にはNERVスタッフの子供が集められており、半分NERVの様な物なのだ。機密情報のうちレベルの低い物ならば、漏れることもあるだろう。
そうは言っても、一応今回の件では親のPCを盗み見ていたりしていた一部の悪ガキに関しては厳重なお説教が各家庭でなされてはいる。
「まぁでも、友達が出来たみたいで良かったじゃない、シンジ君」
「彼、中身が大人だもの。思春期らしいヤマアラシのジレンマとは無縁でしょうね————彼にとって、他人は全て、助けるべき存在であって頼る存在じゃないもの」
そう言いつつリツコが端末で眺めるのは、先日シンジが書き上げた訓練プログラムのアップデート用コード。元々、若干スパゲッティになりかけていたプログラムは、可読性を極限まで考慮した上、各所に注釈文が書き加えられており、一見すれば『異常なまでに親切』としか言えない仕上がりになっている。
だが、自身も一定の知性を持つリツコだからこそ、シンジが書き上げたこのコードは『孤独』なものに映るのだ。
「知能指数が高すぎる弊害ね。彼にとってはもしかすると、自身の父親すら保護すべき『子供』に過ぎないのかも知れないわ」
「なにそれ」
「超天才の尺度では、赤子と大人なんて誤差の範囲内かも知れないという話よ。……私の私見だけれどね」
「なんか、神様みたいな話ね」
「そうね。忘れてちょうだい。……特別視されるのに慣れていても、それが負担にならない訳がないもの」
そう言って端末を閉じたリツコは前を向き、頭を振って今までの思索を意識の外へと追いやった。
そんなリツコに対して何とも言えない様な視線を向けるミサトは、リツコからの所感を胸に刻みつつ、作戦指揮官として有用な部下の運用方法を思案するのであった。
* * * * * *
一方その頃。お昼休みとなった第壱中学校では、今日から出席して来ていた綾波レイに対して、シンジ少年が声を掛けている最中だった。
白髪赤目の傷だらけの美少女と、最近噂の美少年。その取り合わせはクラスの注目を集めるが、その中心にいる2人は、それを意に介していない。
「退院おめでとう綾波さん。これ、退院祝い」
「……ありがとう。これは何?」
「ちょっと悩んだんだけど、食べやすくて傷みにくい方が良いかなと思ってさ、ビスケットを焼いてみたんだ。味はプレーンと、紅茶と、シナモンと、ココア。嫌いな味があったら遠慮なく残して。お昼ご飯の足しにでも……って、綾波さん、お昼は食べない派?」
机の上に何もない現状を見てシンジ少年がそう聞いてみれば、レイはチラリと自身の腕に目をやって答えを返す。
「食べられないもの」
「ああ、そうか。ギプス」
そう納得してしまえば、シンジ少年の動きは早かった。「ごめん洞木さん、ちょっといいかな?」と委員長に声を掛け、自身の弁当をレイの机に置いた彼は、委員長の洞木ヒカリにレイの食事介助をお願いして、自身は購買にパンを買いに行く事を伝えて席を辞す。
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