序-9
「そろそろ俺は口から砂糖吐きそうだよ」
「相田君、砂糖を出せるの?」
「綾波さん、ケンスケが言ってるのは暗喩だよ。『2人の間に流れる甘い雰囲気に胸焼けがしそうだ』って意味」
「そうなの?」
「おいそこ3人、聞こえとるぞ」
照れ照れと赤くなるヒカリ、同じく赤いが妹の影響か耐性がついて来たらしく文句を言うトウジ、それに苦笑するシンジ。
そんなお決まりのやりとりも、食事を始めてしまえば次第に雑談へと移行する。
「そういえば、この前の非常事態宣言の時はやっぱり碇が戦ったのか?」
「まぁそうだね。綾波さんはまだ怪我もあった上に、専用機もまだ修理中だし、僕が倒した感じかな」
「相変わらずセンセが強いんはワシらにはありがたいこっちゃな。……しかし、そうなると綾波もそのうち戦いに行くんか?」
「命令が出ればそうなるわ」
「そうかぁ……なんややっぱり、センセらばっかりに戦わせて自分はシェルターに隠れとるっちゅうんは嫌になるわ、ホンマに」
「そうよね……綾波さん、本当に気をつけてね?」
「いざとなったら戦略的撤退って手もあるんだぞ、綾波」
「……ありがとう」
そう言って、微かに微笑むレイの表情は、以前よりはずっと柔らかい。そんな彼女やトウジ達を優しい目で見つめるシンジは、同級生というよりは保護者のような雰囲気を醸し出している。
あまり近しくない生徒たちからはそれは大人っぽさとして映るが、トウジやケンスケ、ヒカリなど近しいものが感じてしまうのは、碇シンジというヒーローが背負う孤独だった。もちろんそれ以上に親しみと頼もしさも感じてはいるのだが、彼の目に映る優しい光の底に、孤独の影を見出してしまうのだ。
『自分達は碇シンジに頼っているが、碇シンジは誰に頼るのか?』
そんな漠然とした思いを吐き出すものは居なくとも、3人がシンジやレイの周囲に集まるのは、2人のパイロットが何処か漂わせる『儚さ』がどうしようもなく心配になってしまうからでもあるのだ。
————昼食会が、少しでもヒーロー達の心の癒しとなれば。
そんな潜在的な思いやりは、本人すらも気付かぬような感情。だが、シンジだけは、友人達の僅かなバイタルサインを通じて、その温かい心の温もりを感じ取っている。
「————次も勝たなきゃね」
そう微かに口の中で呟いた独り言を卵焼きと共に飲み込んで、碇シンジはまた一層ヒーローとしての覚悟を決めるのであった。
* * * * * *
「零号機の凍結解除、かぁ。暴走事故を起こしたってのに、ちと性急過ぎない?」
自販機前でコーヒー片手にリツコへとそう問いかけるのは、仕事の息抜きにやってきたミサト。そんな彼女に応えるリツコの手にも缶コーヒーが握られている。
相変わらず休む間のない2人の幹部達は、どうにもコーヒーに頼らねば生きていけない身体になってしまっているのである。……ミサトの場合は、そこに酒も加わるのだが。
だがもちろん、業務中に飲酒するわけもなく、彼女が語るのはあくまで真面目な話題。故にリツコの返答もまた真面目なものだ。
「使徒は再び現れた。戦力の増強は、我々の急務よ」
「そりゃそうだけど。……というか、それで言ったらこの前言ってた武器調達。あれは目処つきそうなの?」
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