ハーメルン
TSっ娘が幼馴染男と子作りして雌落ちするよくあるやつ。
11 そして少年は、少女を拐った。

 昔のことを思い出していた。
 ユースと花畑で出会って以来、アタシたちは定期的にそこで会って遊んでいた。

「よ、ほ、と――どうよ」

 くるくると、器用にレイピアを振り回して見せる。
 やることと言えば、主にユースによる剣の手ほどきと、アタシの魔術披露だ。
 ユースと出会って数年、ようやくアタシは魔術を習えるようになった。
 そりゃ魔術は下手すると誰かを傷つけてしまうのだから、ある程度分別がついてから教えるのは普通なんだろうが、こちとら転生者である。
 幼いウチから学習を初めて、習い始めるころには教師なんていらない……くらいのチートは体験したかった。
 そういう意味では、ユースは幼い頃から剣術を学べて羨ましくはある。

「うん、体幹が凄いしっかりしてきた。リーナは筋が良いね」
「筋がいい、じゃ困るんだけどな」

 アタシの目標はユースなので、ちょっと才能があるくらいじゃ困る。
 とはいえユースの評価は的確で、実際それから練磨を続けたけど、未だにユースに剣術で勝てたことはない。
 魔術を織り交ぜて、お互い本気でやるなら五分に持ち込めるだろうか、といったところ。
 こと、何の小手先も使わないただの剣の競い合い、技量のぶつけ合いでアタシがユースを上回ることはついぞなかった。

 逆にユースは魔術が全くと行っていいほど使えないのだけど。
 そもそも、冒険者としてアタッカーを目指すならそこまで魔術を学ぶ必要はないから、それで問題ないのだ。
 アタシみたいにオールラウンダーになる方が普通ではない。

「僕には剣しかないけど、リーナには剣も魔術もある。それって凄いことだと思うけどね」
「解ってるって。でもやっぱユースの剣はすげーからさ、どうしても目指したくなっちゃうんだけど」
「目標にされるのは……嬉しいけど」

 照れるな、とこぼして視線をそらしたユースが可笑しくて笑う。

「何さ、なにか文句あるの?」
「べっつに、おかしなヤツだよなーって。アタシみてーなのに褒められて喜ぶなんて、随分酔狂だ」
「いや君は……その、……えっと」
「あ? 何だよ」

 ボソボソと何かを口にするユースに、マジで何いってんだと返す。
 ただ、そんなユースの顔をみているとどーしてか、これっぽっちも、微塵も理解できないが――アタシはそのことを口にしなくては行けない気がしたんだ。

「……そういえばさ」
「どうしたの?」

 伝えなくてはならないことがあった。
 いや、伝えるべきではないことなのかもしれないけれど、どうしても伝えるべきだと思ったことがあった。
 アタシは、ある意味そこで初めて決断したんだ。
 その行動の意味が、前世男の自意識故に理解できなかったために、


「――婚約者が出来たんだ。父様が決めた」


 そう告げた時の、ユースの顔を、アタシは絶対に忘れないだろう。
 呆けるような、悲しむような、絶望するような、そして、

「……そっか」

 そう呟いた時の、どこか覚悟したようなユースの顔を。
 アタシは明日、その婚約者と初めて顔合わせをすると伝えた。
 そして、その日の夜。


 ユースによって、アタシはアタシの家から連れ出された。言ってしまえば、誘拐である。

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