ハーメルン
勝利の女神の後ろ髪は、蜘蛛の糸に似ている
勝利の女神の後ろ髪は、蜘蛛の糸に似ている

 燦々と輝く太陽。

 ターフを蹴りつける蹄鉄の音。

 狭くなった視界に映る、勝利の女神の後ろ髪。

 それは、どことなく・・・蜘蛛の糸に似ていた。







 スペシャルウィークは嘆息した。

 待ちに待った日本ダービー。

 日本一のウマ娘となるため、避けては通れぬレースだ。

 しかしながら。

 出走表を見る。

 自身の名前。

 よく知らぬウマ娘の名前。

 そして、愛すべき友人たちの名前。

 セイウンスカイ。

 エルコンドルパサー。

 キングヘイロー。

 彼女は思う。

 ウマ娘の世界は残酷だ。

 実力で全てが決まる。

 勝利の栄光も、敗北の落胆も。

 全ては、彼女たちの脚。

 その蹄跡が綴る軌跡によってのみ、決するのだ。

 このレースのため、自らの全力を傾け、トレーニングに励んできた。

 その努力は、決して嘘をつかないだろう。

 人参を一口。

 がりがりと、口の中で砕かれていく。

 いつもは甘い、その味が、今日は酷く、苦く感じた。









 ターフを蹴る。

 その努力の成果を得んとして。

 現在の位置は中団。

 そばには愛すべき友人。

 エルコンドルパサーの姿。

 マスクに覆われた瞳は、虎視眈々と前を見据える。

 前に目を転じる。

 疲れが見える、先頭のキングヘイロー。

 彼女の王者のプライドは、とても見ていて眩しい。

 続くはセイウンスカイ。

 掴み所のない猫のような瞳は、いつもは見せぬぎらつきを宿している。



 誰も彼もが勝利の女神の後ろ髪を掴もうとして、駆けていく。

 無理などと言う娘は居ない。

 己の努力が、かの煌めきに届くと信じているからだ。







 第四コーナー。

 溜めていた脚を解放する。



 堕ちていくキングヘイロー。

 その瞳に宿す絶望。

 届かぬ後ろ髪に手を伸ばし、それでも王者の誇りは彼女の胸に。



 飄々としていたはずの、セイウンスカイの横顔。

 悔しげにこちらを睨めつけ、それでもその脚は自身に並ばぬ。

 熱い魂をひた隠し、飄々と振る舞う彼女はここにはいない。

 勝利を求めぬウマ娘など、存在しない。

 存在してはならない。

 それは、魂に対する侮辱である。




 堕ちていく。流れ星のように。

 どこまでも美しく、儚きその姿。

 煌めくその姿に、原風景を想起する。

 くらいよる。

 いえをぬけだし、どこまでも。

 はしってはしって、そうげんへ。

 そらをみあげた、そのときに。

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