ハーメルン
斬屋顛末(きりやてんまつ)

 ――って、ゥおおっ! 何、危なッ、何だ! 何者だあんたァ、人んちに太刀(だんびら)振り回して躍り込むたァどういう了見だ! どこのどいつ――えェ? こちらの奥方の? 夫君? つまりは息子殿の? 父君ィ? なるほど奥方の後をつけ、中を見ればこの有様と。すわ、息子の一大事とて止めに入ったというところですかい? 

 息子殿、悪運がござンしたなァ。律儀で鳴らした斬屋とて、邪魔が入っちゃ斬れやしねェや。此度は刀を納めますぜ。母君、お代金はお返ししやす、ご依頼は又の機に。

父君、そちらさんもどうかお腰のものをお納め下されィ。だいたいそんな、仇討ちでもあるまいに。白鉢巻にたすきがけ、袴の裾までからげなすって。さァさ、お刀を鞘へ……って危なッ! 振り回さないで、いやさ、あっしはもう斬る気なんざさらさら……ってどちらへ? 
 あァ、息子殿と何ぞ話が? さもありなん、危機一髪の所にござりました故、息子殿まだ震えていらっしゃいやすぜ。そうそう、そばへずいっと寄って言葉の一つもかけて――無言ですかい。左様、親子に言葉は要りませんな。あァされど、息子殿どんどんひどく震えてらっしゃいやす、せめてそう、手を上げて、肩に手でもかけておやりに――いやさ、刀はもう仕舞った方がよろしいンじゃ……って、刀を提げた手を上げて、大上段に振りかぶって、息子殿へ向かって振り下ろ――って待ったァ!

 待った待った待った危ねェ! 離せ離せ、ったって離せませんぜそりゃ、いったい何でまた。え? 助けに来た訳じゃァない? 斬りに来た、息子殿を父君ご自身で? 
 はァ、息子殿が家重代(じゅうだい)の宝を質入れして、お家の金も持ち出して? この白鴉を買った? あらま何と、刀好みもそこまでいっちゃァね。
 はァそれで、この馬鹿者めがと。ようもようも我が子ながら、武士の風上にも置けぬ、ご先祖様に申し訳が立たぬ。いっそ我が手で討ってくれよう、と。あァちょっ、ちょっと、どうぞ落ち着きなすって落ち着きなすって。いや、唐変木(とうへんぼく)のこんこんちきのと申されましても。あァちょっと母君、泣かないで泣かないで。

 え、どうしたんで息子殿? 何? 何が我が子か、って? どういうことで? 
はァ、知っているぞ、って何を。は? 父君が、浮気を。ほゥ、四丁堀の小唄の師匠さん、あァあだっぽい良い女だありゃ、あの人と。へ? 母君も、こっちはこっちで髪結い床の旦那と。あらら。で、あァどうせ俺の生まれも妾腹に違ェねェ、さもなきゃ間男種だ、と。それかいっそ、妾腹の間男種に決まってらァ、ってそりゃさすがにおかしい。

 あァ父君、そんな真ッ赤にならなくたって。あァ、何ぬかしやがる、と。この馬鹿息子めがたわけめが、てめェはこのわしが腹ァ痛めて産んだ子に決まってる、ってあんたの腹は痛んでないでしょうに。そこへ直れ、(おの)が二親も疑うような奴は成敗してくれる、って結句それですかい。
 父君お待ちを……あッ! 何てェ馬鹿力だ、振りほどかれるたァ。


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