父君父君、ちーちーぎーみ! 危なッ危なッ、と申しますか、人んちで刀振り回さないで欲しいンですがね! ちょ、ほら障子が、鴨居まで傷が、あああ掛け軸を真っ二つに! ちょ、お聞きなせィ、落ち着きなせィ、そこへ直れ、ったって息子殿が聞く訳ないでしょうに。だからお聞きなせィお聞きなせィ、だ、か、ら――
あァこンの…こンの、すっとこどっこいがァ……。いィい加減にしてもらわねェとよ、こっちだって黙っちゃいられねェ。そっちが抜くならこっちだってよ、刀使わにゃ止めらンねェや。一丁チャンバラ、致しやしょうかい。参りますぜ、でえェやァ!
――やァァ、あ? あれ? ゥおおォッ!? 何で息子殿、こっちに飛びかかって――と思ったら母君まで息子殿をかばって――ッて痛ッ! 何であっしゃァ、父君にぶん殴られてンですかい? 痛てて……
何? 息子殿は白鴉――そういやあっしが持ってやしたね――が傷付くのが嫌だった? で、母君は息子殿を父君からかばおうと? で父君は、何だか知らんがお二人があっしともみ合ってンで殴った? はあ。
やれやれ……あっしが請け負いまさァ、あんたらよっぽど血の濃い親子だ。揃いも揃ってそっくりの、とんだ人騒がせときた。
あァ息子殿、まだそんな震えて。怖ろしかったでしょうな、二手からの白刃の間、飛び込みなすったンだ。はは、左様で、父君がお怪我もなくよござンしたな。全くもって、左様で。
やれやれ、良う候、良う候。斬れぬものなしの斬屋とて、親子の縁ゃあ切れやしねェ。さ、お刀お返し致しやす。父君も刀を納められて。あァ母君、障子の切れっ端なんざ片付けますよってお構いなく。よござンす、ほんとよござンすから。
お後はもう、ささッとお帰り下さいやし。これより面倒にならねェうちにね。あァそうだ父君、息子殿。面倒の元だ、白鴉は手放しなせェ。息子殿もぼちぼちお勤めしていただいて、お家重代のお宝も、そのうち買い戻されればいかがでやしょう。あァ母君、息子殿を通わせるンなら、緩めの道場がよござンしょうな。
え、障子や何ぞの代金? あァもうよござンすよござンす、とっととお帰り下さいやし。――やれやれ、ようよう行きよった。
――と思ったら何ぞ、揃って戻りよった。いかがしやした、忘れ物でも。
え? あっしを剣客と見込んで? これも縁とて息子殿を、弟子入りさせてェと?
よしやしょう。斬れぬものなしの斬屋とて、そこまで面倒、看切れやしねェ。
(了)
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