ハーメルン
癖馬息子畜生ダービー =遥かなるうまぴょいを目指して=
恋の季節



 秋。
 それは出会いの季節。
 それは恋の季節。

 ラブ。

 出会いはレース場、彼女は栗色の毛並みでただ一頭、輝いて見えた。
 一目見て心の騒めきを抑えられなかった。

 これが、ラブ?

『なんだ今日はやけに大人しいな。病気か?』

『アレですよ。恋ですねこれは』

『恋? 普段、他馬に近づきもしないコイツが? ……本当だ……ガン見してるな』

 手で、視線を遮ろうとしてくるヒト畜生。
 手下の癖に私の邪魔をするな!
 噛んでやろろうかと頭を動かすが、すんでの所で避けられる。
 やるじゃない。

『……はー、これは……なるほどなー。でも、確か、あの馬って…………まぁいいか』

 ああ、なんと美しいのだろう。
 千の言葉ですら彼女の美しさを余す所なく表現する事はできまい。

 だが、あえて表現するのなら。
 顔と尻がいい!

『大人しいうちにゲートに入れときましょう』

 あ、待て、もっと彼女を目に焼き付けたいのだ!
 蹴り飛ばすぞコラ!

『はーい、怖くなーい、怖くないぞー』

 別にゲートが怖いとかそんなんじゃない!
 彼女にそんな怖がってるとか思われたら恥ずかしいだろうが!

 やれやれとゲートに入る。

 ヒト畜生の生み出した最も忌むべき決戦兵器、ゲート。
 確かに恐ろしい。
 だが、賢い私はきちんと対策について考えていた。

『あ、こいつ、目を瞑ってやがる』

 そう、私が認識しなければそこにゲートが本当にあるのかどうかはわからない。
 いや、半分の確率ではゲートは存在しないと言っても過言ではない。

 シュレディンガーのゲートである。

 完璧な作戦すぎて、私は自分の知能が恐ろしい。

 目を閉じても精神統一から明鏡止水の極意にまで至る。
 宇宙の法則は理解した。
 これでゲートは克服したも同然、恐るるに足らず!

 勝利の方程式は確定した!

 もう、なにも怖くない!


『出遅れたぞ!』

 鞍上が騒がしいと思って目を開けたら、ゲートも開いてた。

 他馬の尻を追って、慌てて走り出す。

 まさか、まさかよ。

 宇宙の理解は完璧ではあったが、そのさらに先を行くとは。
 この私の目を持ってしても読めなかった!

 だが、すぐに追いついてみせる。

 せいぜいが六馬身程度。
 私が少し本気で走ればものの数ではない。

 すぐに後ろを走ってるやつには追いついた。

 けれど、目の前に馬の尻。尻。尻。
 おいおいおいおい。

 これでどうやって前へ行けと言うのだ。
 先頭の方などまるで見えはしない。


 前の馬が蹴った土が顔にかかるし、クソとかされると嫌だし、諦めて走るのをやめようかと考えていると、手綱が外へと向けられる。

 成る程、そっちの方には尻が少ないのか。
 外に出ると内側を取ろうとする馬共のなんと浅ましい姿か。


 再び勝利の方程式は結びなおされた!

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