ハーメルン
癖馬息子畜生ダービー =遥かなるうまぴょいを目指して=
黒い舎弟
下手をするとどちらが先に潰れるかのチキンレースになる。
それなら、片方を外国に出して、実績を作り、その上で宝塚や有馬といった大舞台で戦ってほしいというような話だった。
「でも、これまで日本馬の海外遠征って碌な成績を残してませんよね」
「そうだな。上が本腰を入れた以上、これから海外に出る馬は増えると踏んでるし、海外での実績を持つ馬が種牡馬として重視される時代が来る」
「……オーナーはなんて言ってるんですか?」
「挑戦できるレベルだと思うなら、して欲しいとさ」
「相変わらず豪胆ですね。自分なんかは世界と言われると、尻込みしてしまいますよ」
正直、日本の競馬全体が海外のレベルに到達したとは思わない。
けれど、ロータスとナリタブライアンは違う。
この二頭は世界のレベルに匹敵する馬だ。
「まぁ……あとな……本当にここだけの話、別に相手が強いなら、俺は負けてもいいと思ってる」
「……なんでです?」
「今、ロータスはナリタブライアンがいるから、まともに走れてるように見えてるだけだ。……手を抜いてる余裕がないと言ってもいい」
岡辺騎手とある程度、合わせているのも、言う事を聞いていると言うよりは、聞かないと邪魔されると思っているからかもしれない。
ダービーに向けて集中できてた時にレースというものを憶えさせた事で、基本的な勝ち負けや前に出るタイミング、ゴールなども理解している節がある。
だが、ロータスの我儘な性格は変わっていない。
それは、今はまだ問題ない。
「……問題は完全に勝ってしまった時ですか?」
ロータスはレースへのモチベーションをナリタブライアンに依存している。
ナリタブライアンに勝つためにレースを走っている。
「ああ、もし、ナリタブライアンに勝ちきったり、そもそも、勝負できない状況になれば……」
「新馬戦の頃に逆戻りもありえますね……。だから、あえて厳しい勝負を挑みにいくと」
荒療治と言うか、そもそも、あの性格はもう本当にどうしようもないし、それがロータスという馬の強さの一つでもある。
なら、環境を整えるしかない。
「世界で勝って胡座をかけるなら、そりゃ、誰も文句なんて言えなくなる。ロータスの好きにすりゃいい。負けたら負けたでそれがモチベーションに繋がる」
「でも、あまりに大きく負けすぎると、それはそれで、やる気を失いません?」
そもそも、海外遠征そのものがリスクの塊である事には違いない。
行き帰りの飛行機。
免疫を持たないかもしれない病気。
食事、水。
芝、ターフ、何を走るにせよ日本とは違う。
海外で調子を落として、そのまま日本でも走らなくなる可能性だって考えられる。
「けど、それで折れるような馬ならこんなに苦労はしてないだろ。あの無駄なタフさと自尊心の高さは俺らが一番理解してる筈だ」
「……少し期待しすぎな気もしますが、負けてそのまま終われる馬ではないのは確かですね」
納得こそしてないが、諦めたように笑う。
腹をくくらざるを得ないと思ったのだろう。
「でだ、まぁ、ここからが本題なんだが。本当に行くか、とか、行くとしてどう予定を立てるかとかは、また別として、クリアしなきゃならん問題は俺たちの方にもある。……という事でこれだ」
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