5話『騎士の本懐』
───悔しいが。
天才という奴は存在していて。自分では敵わないと思える奴は世界に何人も居て。
でもそれが心折れる理由になった事は無かった。
一番の理由は、そんな天才と一緒にプレー出来るんじゃないかという期待があったからだ。天才と言えどポジションは違っていて、それぞれの役割に振り分けられている。あの日、あの時。“天才”という奴に天狗だった鼻っ柱を叩き折られて、同時に心が躍ったのを覚えている。
あの天才───逢沢 傑という一つ下の男と、ユース昇格を蹴ってでも同じチームでサッカーをしてみたい。こいつが同じチームならば、どれだけ楽しいサッカーが出来るだろう。アイツが“騎士”を求めるならば、その存在はここにいるぞと示したくなるほどに胸が熱くなった。
でも。
こんな経験は初めてだ。
同じポジションで、だが決して体格に恵まれているとは言えない小柄なCF。天才の弟で、少し前まではマネージャーを希望していたっていう───厳しい言い方になるが、天才の兄に潰された臆病な腰抜けと認識して、眼中にも無かった存在。
そんな奴が試合に出ているのを見て、それだけ天才が求めるCFが今の鎌学に居ないのだと思い、やはり来て正解だったと確信して。
その自尊心を、粉々に砕かれた。
トップはJ1の上位クラブ横浜エルマーレスのユース世代。15歳までそこで培った経験や知識が全く通用しない。今の自分でもJ2のスタメンを張れるくらいの能力があると自負している。でもアレはそんなレベルじゃない。初めて横浜のトップを間近で見た時以上の衝撃が、この胸を貫いていた。
そして思う。
ああ、アイツが。王が求めていた騎士とは、アレを指しているのだ。
なるほど。確かに───アレにはなれない。
♢♦︎♢
中学校が夏休みの間に行われる全国中学校サッカー大会。言わゆる全中の予選レギュラーを決める紅白戦が行われた一週間後。
スタメン、ベンチ含めてレギュラーが決定し、調整の為の練習試合が組まれた。
相手は鎌倉学館高等部。つまり中等部の完全上位互換と呼んでも良いチームとの対戦だ。
OBが偶に混ざりに来る程度ならばそれほど不思議な光景ではないだろう。中高一貫の学校での部活とはそういった事態は決して珍しくない。
だが、試合ともなれば話は別だ。個人競技、チーム競技に関わらず、能力・経験・精神全てが全くの別物だからだ。
例えば経験を積ませる為に高等部は控え、中等部はレギュラー。そんな構成ならばまだあり得る。だが今回の試合に至っては高等部もレギュラー、中等部もレギュラー。お互いに選抜されたメンバー同士で行う事になっていた。
部活動に於いて抜擢される監督が中・高で同一だからこそ、たった一週間でスムーズに組めたと言っても良い。だが高等部は高等部で総体に向けた準備期間の時期だ。調整にならない様なら直ぐに取り止めとなるだろう。
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