ハーメルン
踏み台婚約者は竜血令嬢を堕としたい
令嬢ちゃんと聖女ちゃんが出会ったときのこと

「ルージュ・ドラグフレア。ぼくと決闘しないかい?」

 ──時は入学して一月ほど経過した時期。五月頃に戻る。
 つまるところこれは俺の回想なわけだが。

 リリカハート・クレセントは。
 ルージュ・ドラグフレアに決闘を申し込んだ。

 それはルージュを知っている者にとっては自殺行為に等しい。
 彼女に勝てるようなものは、それこそこの国で彼女の父ぐらいのものだ。

 それまでリリカとルージュに絡みなどなく。
 ルージュと俺の決闘も二回目。

 いまだ他の生徒たちが俺たちの決闘に興味を持っていた時分だった。

 リリカが宣言したのは放課後の教室。
 授業も終わり、生徒たちが友達と駄弁ったり、我先にと帰ろうとしたり──。
 まぁ、思い思いの自由時間に入ろうとしていた。

 そこに爆弾発言。意味がわからない。
 リリカにとって、ルージュと決闘する理由も動機も存在しないはずだ。

「なぜ? これでも私、平和主義者なのだけれども」
「よく言うよ。先週は婚約者の首を素手で刎ねたくせに」
「降りかかる火の粉を払うのも平和主義者の務めよ」

 力なき平和など存在しない。
 ──とルージュは不敵に笑いながら付け加えた。

 リリカはこの時、今にして思えば余裕がなく。
 そんなルージュの態度に明らかに苛立っているようだった。

「なら平和主義者らしく、ぼくという火の粉を振り払いたまえよ」
「ふむ──、動機は何かしら。私に勝てばあなたになにか嬉しい出来事が起きるの?」
「さぁね。少なくともこの聖王国で一番強い学生はぼくだと喧伝できるかも」

 無理をしているように、くしゃりとした酷薄な笑みを浮かべるリリカ。
 その時の俺は、リリカが何かしらの野望を抱いているのだろうと認識し。
 敗北者の先輩として、忠告してやろうと思い、席から立ち上がった。

「やめておけ。ルージュは強いぞ。本当に強い」
「おや、王子さま。それは実体験から来る忠言かい?」
 くふふっ──とリリカが笑う。完全に馬鹿にしたような笑みだ。
 その時の俺は、痛い目を見ないように忠言してやったのに……、と顔をしかめた。

「ああ、おまえじゃあ絶対に勝てないな。もし勝てたら俺が何でも一つ言うことを聞いてやる」
「おやおや、それじゃあ婚約でもしてもらおうかな。ぼく、お姫様に憧れてたんだよね」

「馬鹿らしい。貴族の婚約というのはそんな口約束で反故にできるものじゃありません」
 ルージュがガタリ、と立ち上がった。

「だけれども」
 そのままぴしり、とリリカに人差し指を向ける。宣戦布告のサインだ。

「そこまで馬鹿にされて黙っているような人間でも、私はありません。────いいでしょう」
 犬歯をむき出しにして、リリカを睨むルージュ。
 ぽき、ぽき、と指を鳴らしている。

決闘(蹂躙)を始めましょう」
「いいね、実にぼく好みの展開だよ」

 睨み合う二人。女同士の意地の張り合い。
 それに口を挟めるほど、俺の肝っ玉は大きくはなかった。



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