ハーメルン
斬壺(きりつぼ)
第4話


 町外れではさらに奇妙な光景があった。店開きでもしたかのように、ずらりと壺の並ぶ前に。抜き身の刀を手にした、年かさの武士がいた。仇でも討ちにいくかのように、白鉢巻に白だすき、袴の裾をからげた姿で。そのそばには壺を買い集めた武士が、いかにも厳粛な面持ちで控えていた。桶から柄杓で、白鉢巻の武士が手にした刀へ水を注ぐ。それはまるで、介錯の際の作法であった。

 白鉢巻の武士は助走をつけ、裂帛(れっぱく)の気合いと共に壺へと刀を振り下ろす。当然の如く壺は割れた。いくつかの破片に。
 武士はなぜだか歯噛みして、また別の壺へ刀を振り下ろす。それも同じように割れる。そんなことが繰り返された。遠巻きに眺める町の者もまばらにあった。
 全ての壺を割り終えても、武士の表情は決して晴れなかった。次の日、また次の日も、徳利といわず土鍋といわず、さらに陶物が買い集められた。




「明朝にござりまするな」
 おぼろげな行灯の光の中、宿で弟はそう言った。
 開け放った障子の前、月明かりの下で剛佐はうなずく。何も言わずに。

「勝算は」
 弟の声に剛佐はまた、うなずく。

 弟がゆっくりと、強く目をつむる。平伏した。
「お逃げなさいませ」
 何も言わずにいると、弟は伏したまま続けた。
「兄上が、斬壺なくば勝てぬというほどの相手であれば。……勝ちは、ございますまい」

 剛佐は答えず、身じろぎもしない。
 弟が顔を上げた。その目に白く月明かりが映る。
「もしも立ち合うと仰るならば。拙者も、加勢を」
「たわけ」

 つぶやくように剛佐は言った。
「立ち合いは一人と一人。他は無い」
「されど……」
 剛佐は立ち上がり、刀を手に部屋を出る。
「もう言うな。先に休め」

 月明かりの下を一人、町外れへと歩く。壺の破片が散らばる辺りへと着いて、剛佐は刀を抜いた。軽く振る。あまりにも、いつもの手応え。
 剛佐は腕をだらりと下げ、ため息をついた。加勢させることができるなら、それであの童をなぶり殺せるなら、どんなによいか。けれど流派の長として、いや、剣士として。それだけは出来なかった。それどころか。下手をすれば、弟ともども斬られるのではないか――その光景が頭に浮かび、鳥肌が立った。
 かぶりを振り、息をつく。見上げた月はただ白かった。

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