うっかりA級賞金首を倒してしまう程度の能力
あれから、『トロイの木馬』のおかげで生活がかなり楽になった。
金を手に持って歩いているだけで、犯罪者が勝手に寄ってきては自爆し金をばら撒くのだ。
俺はそれを素早く拾い集めて逃げるだけ。
うっかり多めに拾ってしまうこともあるが、それは不可抗力というやつである。
悪気はなかったのだ。
俺は悪くない。
悪いのは俺から金を盗るやつらだ。
なにしろ悪いことをしなければ俺の能力は発動しないのだから。
これは天罰のようなものなのだ。悔い改めるがよい。
そんなわけで天罰を振りまきつつ金を稼いでいたのだが、だんだん地面に散らばった小銭を拾うのが面倒になってきた。
全部拾う前に他の人が来てしまうことも多い。
何か良い方法がないか考えながら、天罰を下す相手が寄ってくるのを待つ。
金ではなく持ち運びやすい金目の物を使うのはどうだろうか。
あまり価値の高いものにしてしまうと死人が出かねないので調整が難しい。
色々と考えている内に今日の収入源が見つかった。
背後から近づいてきたそいつは俺の頭を力いっぱい殴りつける。
あまりにも殴られ慣れたせいか、最近はいくら強く殴られても全く痛くない。
むしろ殴った側の方が痛がるほどである。
今回もダメージはほとんどなかったのだが、俺はわざとやられたフリをして地面に伏せる。
「このっ、石頭が!」
自分から殴ってきたくせに文句を言うクズ野郎が、俺の手から強引にお札を奪う。
すると、その罪人は顔を真っ赤にして悪態をつきながらフラフラと倒れこむ。
いつも通りの流れだ。
後は簡単。起き上がり、落ちている金を拾うだけ。
……のはずだったのだが、なぜか今日はそれが見当たらない。
もしやこの男は無一文だったのだろうか。
いや、その場合であっても俺が持っていたお札一枚は戻ってくるはずである。
まさか風で飛ばされてしまったのか。
急いで周囲を見渡すと、宙に浮いている馬のような生き物と目が合った。
正確に言うと、それは目ではないのかもしれない。
本来、目があるべき場所には穴が開いていて、その奥に光る玉のようなものが見える。
その光の玉が俺を見つめているように思えたのだ。
俺は走って逃げた。
だが馬っぽい謎の生き物は宙を滑るようにして追いかけてきた。
いくら速く走っても俺のすぐ後ろの位置をキープして離れない。
まるで背後霊のようだ。
というかこれ、実際に背後霊、スタンド的なものではないだろうか、と気づくまでにそう長い時間はかからなかった。
俺が足を止めると、馬も停止する。
襲いかかってくるような気配はない。
あらためてよく観察してみると、馬と木馬の中間みたいな見た目をしていて、少しかわいい。
試しに「消えろ」と念じてみると、空中に溶けるように消え去った。
次に「出てこい」と命じてみると、俺の体から煙のようなものが出てきてそれが馬の形となる。
どうやら本当にスタンド的なものが見えるようになってしまったらしい。
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