ハーメルン
ゆるふわ芦毛のクソかわウマ娘になってトレーナーを勘違いさせたい
2話:トレーナーに見つけてもらうために頑張るぞ!
――ウマ娘の最高速度は、時速70~80キロを誇る。そうでなくても、レース中ならスパート時以外でも50~60キロを出していなければ話にならない。
つまり、ウマ娘としてありのままに生きるなら、絶対的な速度に慣れなければならないわけで。
それが元人間の俺に対する第一の試練だった。
「――ふ、風圧が強すぎる!!」
誰もいないトラックコースの上で、俺は柵に手をついて息を切らしていた。
そう、走った時に受ける風圧がマジで強いのだ。ご自慢の髪の毛はクソ乱れるわ、目を開くのも辛いわ、舞い上がった芝が飛んできてビビるわで、かなりヤバい。しかも、走ってる時に聞こえてくるのは「ボボボボ」って風切り音だけ。ウマ娘って耳がいいから、この風の音を拾いすぎて集中できないのだ。
何とか耳を動かす練習を並行して行っているが、ぴくぴくと動くだけで後ろに絞ったりはできない。トレセンに入ってくるような子は、小さい頃からレース教室とかでこういう小技をみっちり教えこまれたんだろうな〜。
正直、全力疾走の前に心が折れそう。
……そんな時はウマホを使って自分の顔を見る。
あ〜〜〜〜顔がイイ!!
芦毛! 優しげなタレ目! もちもちのほっぺ! 小柄な体躯! スレンダーな身体! これ無敵だろ。マ〜ジで可愛くて笑っちゃうわ。まさにオタク特攻って感じで最強。うほほ、笑った顔もクソかわ。昔の俺だったらニチャァって音がしただろうな。
めっちゃ元気出た。この世のものとは思えないほど美しいよ俺。最高。やる気出てきた。無限に出るよこんなの。絶対トレーナー引っかけて勘違いさせてやるから見てろよ。
「っし、続きやるか……!」
俺はスポーツドリンクを含んだ後、再びターフに戻った。
兎にも角にも、全力疾走できるような身体にしないといけない。恐怖を拭うのだ。
「――ふっ!」
ターフの上を走り出して、徐々にスピードを上げていく。下手なコーナリングをしてから、直線に入ったことを確認して――俺は一気にギアを上げた。
トレーニングシューズに付属する蹄鉄がターフを噛む。ぐぐぐ、と上半身が後ろに引っ張られる感覚がしたのを合図に、身体を無理矢理前傾姿勢にする。
「――っ!!」
一歩目を踏み出した時点で、「あ、これ無理だ」って人間の頃の本能が身体にブレーキをかける。実際、気が狂いそうなほど速いし、目を閉じて速度を緩めてしまいそうになる。
「や、やっぱり、俺には……」
恐怖に負けて、俺は全力疾走に移行する寸前で速度を緩めた。
そのままゆっくりの速度でコースを1周して、さっきの位置まで戻ってくる。一歩一歩を小さくして、スポーツドリンクを置いた場所で俺は立ち止まった。
「く、くそ……」
変われない自分にイライラする。次の選抜レースまで1週間もないのに……こんな所で躓いてどうする、俺!
今日でこの流れは何日目だろうか。前回の選抜レースからずっとこの調子だから……8日もうじうじしていることになる。ガキじゃないんだから、やるしかねぇもんはやるしかねぇんだ。そうやって自らを鼓舞しても、速度に対する恐怖は一向に拭えない。
足がすくんでしまうのだ。一定の速度を超えようとすると、脳が危険信号を鳴らして勝手に運動を止めてしまう。ジェットコースターのように安全は保証されていないし、車のように外装もない。
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