第5話 ギルドファイト制度
耳を疑った。確認のために聞き返していくと、ユノは表情ひとつ変えずに振り向いてくる。
「そうよ。何か問題でもある? まさか、料理ができないとか言わないわよね?」
「いえ、料理とか以前に、これ……助手としての仕事ではなく、どちらかと言いますと、家政夫のお仕事ですよね……?」
「?」
まさかの、お互いのハテナマークがぶつかり合う。
何というか、どこか話しづらいペースを持つ人物だった。ユノも本気で疑問に思う顔を見せてくるものだったから、自分は「分かりました、やれるだけやってみます……」と答えるしかなかったものだ……。
ユノさんが求めていた人材ってもしかして、探偵の業務をお手伝いしてもらう助手ではなかったのでは……?
「それでは、まずは朝食の準備から行います。何を作るか考えますので、冷蔵庫を拝見しますね——」
「その前に一つ、貴方にしてもらいたいことがあるの」
キッチンへ向かおうとしたところで、ユノに呼び止められた。
事務机のイスに座る彼女。そこでファイルを手に取りながらセリフを続けてくる。
「貴方にはまず、“この町”に馴染んでもらう必要があるわ。これは私の独断による命令ではなく、ギルドマスターからの指示によるものよ」
「ギルドマスター……ネロさんからの?」
「これ、取りに来てちょうだい」
彼女に言われるまま、自分は事務机へと向かってファイルを手渡される。
「この町の案内図よ。貴方にはまず、この町に馴染んでもらうための挨拶回りをしてもらうわ」
「挨拶回り、ですか」
「ギルドタウンは、すぐに噂が広がるわ。既に貴方という存在は全員の耳に行き渡っているでしょうから、まずは町の人々に顔を出しにいきなさい。——こういうものは、最初が肝心だから。っていう、ネロさんからの貴方宛ての指令」
町の案内図を眺める自分。
傾斜に築かれたその見取り図は、海に面する形で人々の住む町が形成されている。案内図の上に行けば行くほど崖上になり、単純に高度が上がっていく様子がうかがえた。
「あの、マップに“龍明”って書いてありますが、こちらは一体……?」
「このギルドタウンの名前よ。——此処は、ギルドタウン“龍明”。数あるギルドタウンの内、最もこれといった特徴が無いことで有名ね」
「それ……観光名所としてどうなんでしょうか……?」
「お手伝いを生業としている団体ですもの。人助けで十分に商売が成り立っている以上、観光地としての需要はそれほど必要ではないということね。——とはいえ、この町の景観は、現地の人間でさえ見惚れるほどのもの。他のギルドタウンが町の個性で勝負していくその中で、ここ龍明は、他にはないシンプルさを売りにしているわ」
「それが、ギルドタウンとしての利益に繋がっているんですね。なんともまぁ、奥深い……」
「いいから早く、挨拶回りを済ませてきなさい。戻り次第、助手としての業務にあたってもらうから」
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