ハーメルン
「超光速の粒子に乗せて」
「超光速の粒子に乗せて」

Ⅰ――二年目の一月

 しばらく前に注文しておいた本をトレセン学園の事務室で受け取ると、こちらから切り出すまでもなく職員の方は「それから……」と言ってもうひとつ荷物を持ってきてくれる。手渡された小包には「アグネスタキオン」という宛名がカタカナとローマ字の両方で併記されていて、外装も汚れているから国際便で送られてきたのだと一目でわかる。トレーナーといえど担当するウマ娘に届いたものを勝手に受け取ることは原則できないけれど、「効率が悪すぎる!」と()()が何度も言っているうちにこれも職員の方とのあいだの例外的な習わしになった――トレセン学園の中で彼女に許されている他のいくつかの例外と同じように。
 両腕で荷物を抱えて彼女の「ラボ」に持ってゆく。ここ最近は忙しくて積み上げたままの本もあまり読めていないし、今抱えているものだって一体いつ注文したどの本なのか憶えていない。忙しいのは彼女の「実験」に付き合っているからだし、そのせいで読まなきゃいけない資料も増えてゆく。
「タキオン、海外から荷物が届いてたよ」と、ラボに入って声をかけると彼女は振り返って「やぁやぁトレーナー君、遅かったじゃないか。どれどれ……」と言う。「あぁ、地球の反対側に住んでいる私の幼い頃からの友人からだ。また手紙も付いているな、相変わらず律儀な奴だ。彼女のことは前に話したことがあるだろう? ふぅン……家族共々元気にしているそうだ」
「それなら良かった。あ、今日はダイワスカーレットの模擬レースを見に行くんじゃなかったっけ?」
「あぁ。そうそう、今日はウオッカ君も出走するらしい。スカーレット君、随分気合が入っているようだったよ。さぁ、君も早く準備したまえ」

 二週間前、タキオンはジュニア級の年末に行われたGⅢレースに勝利した。これでメイクデビューから二戦二勝で、レース直後だからしばらくはトレーニングメニューも緩めている。なぜかもともとずいぶん親しくしているダイワスカーレットから聞いた模擬レースにタキオンは興味をもち、息抜きもかねて見学することにしたのだ。
 そのまますぐにラボを出て模擬レースの会場に向かい、スタンド席に座ってスタート位置の方に目をやると「緋色」と称される髪と尻尾を一月の冷たい風になびかせたダイワスカーレットがすぐに見つかった。スタンドに人はそれほど多くなかったから、彼女もこちらに気づいて大きく手を振る。タキオンはラボからそのまま着てきた白衣の余った袖をひらひらさせてそれに応えた。
「おっと、今日は彼女も出走するのか」そう言ったタキオンの指差した方を見ると栗色の髪のウマ娘がいる。
「知ってるの?」
「いや、知り合いというほどでもないのだがね、なんだか彼女は他人のような気がしなくてねえ」
 ラボを出るときに慌てて掴んで持ってきた資料の束を繰って今日の模擬レースの出走表を探す。自分の担当以外のウマ娘から学ぶのもトレーナーの務めだ。たしかにこの束の中にあるはずだけど、忙しくて資料の整理もできていない。ええと、あのウマ娘は……ゼッケンの番号は――
「パン!」というレース開始を告げる音がそうこうしているうちに鳴った。慌てて顔を上げるとダイワスカーレットが先頭集団を引っ張るのが見える。いつもの彼女らしい堅実で、それでいて意欲的な走りだ。

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