ハーメルン
とあるキラキラしたいウマ娘
第17話 チーム結成

西条はいま理事長室にいた。この部屋に入るのは2度目である。1度目はトレーナーとして就任した挨拶の時。それ以来、幸か不幸か縁のない部屋であった。
西条の前には二人の女性がいる。このトレセン学園の理事長、秋川やよいとその秘書、駿川たづなだ。
その一人、秋川やよいが《歓喜》と書かれた扇子をバッと広げた。

「まずはおめでとうと言わせてもらおう。最初に担当したウマ娘がダービーを制覇するのは偉業であるッ!」
「ありがとうございます」

西条は慇懃に礼を言った。

「先に行われた有馬記念も、惜しくはあったが3着は立派な成績だ」
「……どうも」

年末に行われたグランプリレース、ネイチャは問題なく出走ウマ娘に選出された。彼女の自称ライバルであるツインターボは、投票では選ばれなかったものの、URAの推薦を受けて有馬記念に出走を果たした。
要するに「このメンバーじゃ盛り上がりに欠けるから、得意の大逃げで盛り上げてね」とのことだろう。

(テイオーはともかく、マックイーンを出走停止にしたのはあんたら(URA)だろうに)

と西条は心中で吐き捨てた。眼前の女性、秋川やよいはトレセン学園の理事長であると同時に、URAの役員でもあるのだ。だが彼女はウマ娘よりの考えであることは西条も承知している。URAも一枚岩ではないということだろう。

本命不在と揶揄された有馬記念を優勝したのは意外なウマ娘だった。
予告通り大逃げしたツインターボだったが、さすがに2500メートルは長すぎた。最終コーナー手前でスタミナが尽きて失速した。
それをかわして先頭に躍り出たナイスネイチャだったが、まったくマークしていなかったダイサンゲンに差されてしまう。そこでバタついて、追随してきたプリクラースナにも抜かれて3着でゴール。詰めの甘さが露呈したレースでもあった。

「それで、私に何か御用とのことですが?」
「うむッ! 実はキミにチームを結成してほしい」

秋川やよいは扇子をバッと裏返した。そこには《要望》と書かれてある。西条はその提案に眉根を寄せた。

「チームですか。しかし新人トレーナーはサブか専属でやるのが定例だと伺いましたが?」
「確かにッ! 普通はそうだ。たづなッ!」
「はい。理事長」

傍に控えていた女性秘書、駿川たづなが一歩前に出る。

「西条さんは最初のウマ娘をダービーウマ娘に育てました。それは大変な偉業で、過去に何人もいません。最近だと東条さんくらいです」
「おためごかしは結構です。どこかから圧力があったのでしょう?」

西条がそう言った瞬間、たづなの柳眉がピクリと動いた。やよいに至ってはあからさまにオロオロとしている。

「テイオーの邪魔をした、という不満の声は私も承知しています。厄介な輩をあなた方が弾いてくださっていることも。それについては感謝しております」

テイオーが菊花賞を取ったことが決定的だった。そして有馬記念を逃したことで、ネイチャの能力、というよりは西条の能力を疑問視する声が上がったのだろう。

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