ハーメルン
とあるキラキラしたいウマ娘
第19話 夏合宿

西条はまずブルボンに精密検査を受けさせた。自己流で、しかも聞けばかなり無茶なトレーニングを続けていたらしく、どこか身体に異常があってもおかしくはなかった。
だが西条の心配は杞憂であり、ブルボンの身体は健康そのものだった。

「だからといって無茶は許可しない。坂路は今までの半分程度でいい」
「無茶をしなければ三冠は達成できません」
「坂路はダービー以降で良い。筋肉には上限値がある。それはどうやったって覆らない。まずはスタート練習を徹底的にやる。100回やって100回成功する精度でなければいかん。重要なのは集中力だ。ゲートが開く前の音を感じ取れ」
「了解。ミッションを開始します」



「皐月賞は文句のない出来だった。これからは徐々にスタミナ訓練を始める。パワーアンクルの重りも増やしていくぞ。プールも積極的に使っていく。そしてコーナーだ。コーナーは直線以上にスタミナと脚を使う。コーナーの曲がり方を徹底的に詰めていく」
「了解。ミッションを開始します」



「ネイチャ。メジロパーマーの限界値は分かったな。速すぎるか遅すぎるか、あるいは平均ペースか。その見極めさえできれば負ける要素はない。だが、油断するな。テイオーもマックイーンもいないとはいえ、伏兵はいつだってはいると思え」
「りょ~かい。後輩が二冠取ったからね。あたしも結構キラキラしてるってとこを見せとかないと!」



ブルボンは二冠を達成し、ネイチャはダービーウマ娘に続いてグランプリウマ娘の称号を手に入れた。
西条が2年連続でダービーウマ娘を育てたことは一時話題になったが、ことさらに誇ることはなかった。
その西条たちだが、現在は夏合宿中である。高い競争率を誇る合宿の参加権は通常くじ引きで決定するのだが、西条はチーム設立時の交渉で、理事長の推薦により参加できていた。

「せっかくの海だし、まずは泳ぐか」
「イェーイ、トレーナーさんは話が分かるね!」
「あの島まで行って戻って来るぞ」
「……ええ? それってもはや遠泳じゃない?」

快哉を叫んだネイチャだったが、一瞬にして耳がペタンと萎れてしまう。

「良い鍛錬になりそうです」
「念のため一瞬で膨らむ浮き輪も持ってきたから安心しろ。じゃあ行くぞ」
「ちょいちょい! まさかトレーナーさんも泳ぐの?」

先頭で海に入っていく西条を見てネイチャは慌てて制止した。

「走りじゃ敵わないが、泳ぎなら負けんぞ。さあ競争だ」

そう言って西条は小島に向かって泳ぎ始めた。
海とプールの違いは、まず波があることだろう。流されまいと姿勢を矯正するので筋肉と体力を使う。
水泳は全身運動だ。つまり全身の筋肉をバランス良く鍛えることに向いている。特に陸上での筋トレでは鍛えにくいインナーマッスルの鍛錬や、関節可動域の向上という目的もある。

勢いよく先頭(ハナ)を切った西条だったが、ふたりもウマ娘としての意地がある。スイスイと西条を追い抜いた。
だが普段使わない箇所の筋肉を使ったらしく、復路では息が荒くなっていた。最後尾の西条にせっつかれる形で、なんとかふたりはゴールを果たした。

「はぁ……はぁ……思ってたより、ずっとキツい」

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