愛バを洗ってあげるトレーナー【2】
ルドルフの両肩に手を置いたところで、さてどうしたものかと一瞬思案する。
勢いに流されてここまで来てしまったが、しかしどこから手をつければよいのだろうか。思えば人の背中を流すという行為自体、実際に行うのはこれが初めてのことだった。
「どうしたトレーナー君?早く洗ってくれないと体が冷えてしまうよ」
「あ……ああ、分かった」
あれこれ悩んでいたところで仕方がない。どのみちただでここから出られる筈もないのだ。ここは一つ腹を括って、彼女を満足させられるよう奉仕するほかないだろう。
彼女の体越しに鏡の横へ手を伸ばし、ホルダーからシャワーヘッドを取り上げる。栓を開き、手の平に当てながらお湯の勢いと温度を予め調整しておく。
十分具合が整ったところで、私はルドルフに頭を下げさせた。
「それじゃあ、失礼するよルドルフ」
「ああ、よろしく頼む……わぷっ!?」
頭頂部から水流をぶっかけ、最初はお湯だけで髪全体を慣らしていく。水の跳ねた瞬間ルドルフのミミがペタンと伏せられてしまうが、それも指で摘まんで引っ張りあげると縁の部分を優しくくにくにと解してやった。
そうしている内に、彼女の肩がだんだんと震え出してくるのが分かる。白々しいと自覚しながらも、手を止めずに労りの言葉をかけてやった。
「大丈夫かなルドルフ?痛かったり痒い所があったらちゃんと手を挙げて言うんだよ」
「い……痛くはない。痛くはないんだ。だが、くすぐったいと言うかなんと言うか……決して大丈夫というわけでは」
「はい大丈夫だね。続けるから」
「ああっ」
手を挙げないということは問題ないのだろう。
先程から必死に私の指を押し退けて顔を伏せてしまいそうになるウマミミをなんとか自立させる。人間より遥かにパワーが上回るウマ娘相手といえど、流石にミミ相手に力負けしてやるつもりはない。
ウマミミはその構造上、走っている最中に飛んできた砂や埃が中に溜まってしまいがちになる。それを防止するためにメンコをつけてトレーニングするウマ娘も多いが、生憎ルドルフはそうではない。だからこそ、入浴の際はこうして隅々までしっかりと洗わないといけないのだ。
放っておけば周囲の音が拾い辛くなったり、中で炎症を起こしてしまう危険もあるほか、ヒトのそれよりも脳に近いため最悪菌が頭にいってしまう可能性もあるため、ウマミミの洗浄は極めて重要なことである。決して私にそういう趣味があるだとか、ルドルフを虐めたいだとかいうわけではないのだ。
「……ん。ちゃんと中までしっかり綺麗にしているね。感心感心」
「あんまりルドルフのミミは洗いごたえないでしょ。いつもこれでもかというぐらい、念には念には入れて手入れしているみたいだからね」
「なんだ、同室だからって風呂まで一緒に行動してるんだな君達は……。それはそうとシービー、君のミミはどうなんだろうな?」
「さぁ?自分では綺麗にしてるつもりだけど、一人じゃ上手くできてるかよく分からないからね。後でトレーナーが直々に確かめてくれればいいよ」
「はいはい……」
やはりというかなんというか、シービーも体を洗ってもらうことが前提になっているらしい。少しは恥じらいがないのかと言いたくもなるが、目の前で堂々と湯船に浸かっているあたり今更だろう。
「さて、まだ終わりじゃないよ」
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