白く輝く騎士(2):LAUNCH
宮城県北東部、牡鹿半島。
東日本大震災の爪痕が生々しく残る石巻湾は、普段ならば港湾の復旧作業で多くの船が行き交う場所である。
しかし、この日は人の気配が消え、不自然な静寂に包まれていた。
原因は宮城県道220号牡鹿半島公園線、通称コバルトラインにあった。
数日前より、自衛隊車両や大型トラックが大量の積荷を震災により通行禁止となった女川町から鮎川浜までの区間に運び込んでいた。
積荷は短距離弾道ミサイル用輸送起立発射機。石巻湾上空を眺めるように、整然と130基あまりを設置したのだ。
いずれの架台にも直径60センチ、長さ9メートルほどの筒状の長物が取り付けられている。
イランより調達した、ファテフ110改良型である。またの名をファテフ313と呼ばれる、この短距離弾道ミサイルは最大有効射程が500キロメートルであった。
牡鹿半島を包む不自然な静寂は厳重な警戒によるものだったのだ。
輸送起立発射機の傍で暖を取る人々は異様な緊張感と狂気が綯い交ぜになり、寒さで息をするのも疎ましいと感じながらも、神経をイヤホンへと集中させていた。
【18時55分】の時報、そして【LAUNCH】を示す音声信号。
アラビア語で征服者の意味を有する、この短距離弾道ミサイルは轟音と白い煙を残しながら異国の空へ飛び立っていった。
発射された短距離弾道ミサイル・ファテフ110改良型は、僅か3分でいわき市上空を通過し、瞬く間に水戸、土浦、習志野を飛び越える。
300キロメートルを超える道のりを数分で踏破した先陣の12発が、東京湾に浮かぶ白い光点に向かって突入した。
ファテフ110改良型の飛来に呼応して、【白く輝く騎士】の6機1組から成るシールド・ドローンが球を凹ませるように移動させる。
【白く輝く騎士】の背面放熱板が発光し、輝きが膨張した。
銀色の光の筋が生じたかと思った瞬間、シールドのポケットに入り込んだファテフ110改良型をズタズタに引き裂き、次々と爆散させていった。
連鎖して発生した衝撃波が湾岸に伝播。
港区にそびえ立つタワーマンションを飲み込み、強すぎる衝撃がガラス窓を一斉に粉砕した。
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