篠ノ之束はクズである。【上】(2)
姉が背もたれに体重を預け、脚をぶらぶらと揺らしている。
懐から板ガムの包みをひとつ取り出す。口中に板ガムを納め、クチャクチャと音を立てた。
私こと、【篠ノ之箒】は頭を巡らせた。
篠ノ之束は斯様にもクズであっただろうか。眼前の姉は、かつての自分の記憶と外見こそ相違なかった。だが、頭が足らないと言おうか……浅はかな印象を拭い去ることができなかった。
かつての足跡を思い起こす。
【篠ノ之束】は若くしてインフィニット・ストラトスを発明し、文明社会に技術革新をもたらした。
成る程、篠ノ之束という人間は確かに【天才】であった。
世間には篠ノ之束を買いかぶる余り、【天災】と呼びたがる者がいた。私からしてみれば、あまりにも恐れ多い呼び名である。世界の偉人たちと肩を並べるほどの実績を残してはいなかったのだ。
偉人たち——ウラ○○○○・○○イチ・レ○○ンやヨ○○・ス○○○ン、毛○○、ア○○フ・○○ラー——が社会に与えた影響を鑑みれば、私は本当に小さな変化をもたらしたに過ぎない。
かつて私は、強い使命感を抱いていた。偉人たちと肩を並べ、名を残したいと功名を欲した。
だが、インフィニット・ストラトスを発明しただけでは功名を満たせなかった。私にはそれが不満でならなかったのだ。故に、偉人に倣って社会実験を試みたのである。
既存兵器による社会基盤の破壊、革新たるISによる新時代の再構築。
既存兵器の入手は存外容易かった。北○○、ロ○○、イ○○などから旧型で使用期限間近の大量破壊兵器を捨て値で買った。複数の闇サイトを立ち上げ、協力者たちを募り、洗脳した。協力者たちは恍惚に浸り、祖国と大切な者への愛を口ずさみながら発射ボタンを押した。そして、興奮冷めやらぬ中、【暗部】なる組織が協力者たちへの箝口令を徹底したのだ。
悪行はこの、15歳のときの一度きりだけである。その後は自らの信じるところの善行に努めた。食中毒に倒れ、若くして非業の死を遂げた私は、輪廻転生を果たしたに違いなかった。
姉が板ガムを差し出した。
手を伸ばすと、「パチン!」と音がして、爪の根元に鋭い痛みが走った。驚き、涙をこらえて姉を睨みつける。
「引っ掛かったー。箒ちゃんはバカだなあ」
恨みがましい顔をしても姉が意に介する訳がない。それどころか、本当に楽しそうに大口を開けて笑い、仰け反って足をばたつかせた。
「アッハッハッハ!! 箒ちゃんの顔、ウケる! ふむふむ……本当に痛いのかなぁ……?」
パチン!
「痛ってえ! アハハハ! 痛い痛い、ホントーに痛ぁい」
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