篠ノ之束はクズである。【下】(4)
「どうして開かない! さっきは開いていたのに!」楯無氏は本気で逃げる気であった。
「まーまー落ちついて座ってくださいな。料理が冷めてしまいますよ。五反田のお兄ちゃんは三ツ星なんとかにもいた腕の良いシェフなんですよ。デザートくらいは食べましょうよ」
姉が口にものをいれながら喋る。
私も姉に習って残していた料理を口に運ぶ。
研修センターは厨房業務を五反田食堂に委託していた。通常ならば五反田食堂の奥さんが調理するのだが、今回は特別な食事会ということもあって奥さんの従弟も厨房に立っていた。
「おいしいなあ。これが10億円の味だと思うとかんむりょーって気がしますねぇ」
ひとり美味しそうに食べる。姉の食事マナーはめちゃくちゃだ。
私もしばしの間、食事を楽しむことにした。前回の人生ではいろいろな国を訪れては食べ歩きしたものだ。
最期の記憶の直前、夜の屋台で舌がピリリと痺れたような気がしたのだが、記憶があいまいである。
「くそぅ……開かない……」
楯無氏が椅子に腰掛けてしょげかえった。
モバイルバッテリーを視界に入れないようにしている。5センチ角の外装から光線が飛び出して楯無氏を消し去ることは決してない、と姉が告げても今の楯無氏に通じることはないだろう。内部には微細化したシールドバリアー発生装置が組み込まれていて、何かと敵の多い楯無氏のお護符として機能するはずであった。
「むふーっ」姉は満足そうであった。
楯無氏が下を向きながら料理を咀嚼する。
どの道楯無氏に選択肢はない。
競合他社であるファントム・タスクが、かき集めた1900基を続々と国内へと搬入していた。
【暗部】の担当予定は北経由で購入したイスカンデル型700基である。残りの400基は弾道ミサイル潜水艦に搭載されたSLBMであった。
更識楯無が交渉の場についた時点で、篠ノ之束が仕組んだ奈落の底へと溺れて苦しむ以外になかったのだ。
「でっざあと♪ でっざあとっ♪」
フォークとスプーンを握りしめ机をガチャンガチャンと音を立てた。
「楽しみだねー♪ 箒ちゃん♪」
私は一瞬遅れてうなずいた。
「失礼します」
と、内側からは開かなかったはずの扉が開いた。
現れた給仕の姿に姉が手を止めた。ニコニコと笑みを浮かべ、私の注意も給仕へと向けられた。
楯無氏の皿が下げられ、デザートが置かれた。
室内に静寂が訪れ、物音がよく響くようになった。
「ありがとう……ッ」
楯無氏が礼を言うと、給仕が微かに相好を崩す。
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