四 遭難
ジャミラが出発してから三ヶ月、何もかもがうまく行っているように思え、私も安心していた。そして、その頃は自分の進路について警察官を捨て、宇宙飛行士を目指すのも悪くはないかもしれないなどと考え始めていた。すべてが平和だった。しかし、その平和な日常はもろくも崩れ去った。
母を失った官舎での爆弾テロ事件と同じように、それはまた突然やって来た。
私がそれを最初に知ったのは臨時ニュースを伝えるテレビのテロップだった。
どの番組を見ていたのかはもう思い出せない。刑事もののドラマか何かだったように記憶しているのはそのときの映像が、誰かが誰かにピストルを向けているシーンだったからだ。あるいはマフィアの活躍を描いたアクション映画だったかもしれない。ただ、そのシーンは思い出せるのものの演じていた役者が誰だったかはもはや思い出せない。
「X国の人間衛星が宇宙空間で爆発したとX国宇宙局が発表」
それを見た瞬間、私の頭の中は真っ白になった。
それからニュース番組を見るためにチャンネルをあちこち変えたがなかなかニュース番組にはたどり着けず、たどり着いても国内の事件とかを取り扱っていて人間衛星の事故を扱ってはいなかった。ようやく人間衛星爆発のニュースにたどり着いても扱いは小さかった。一番最初の臨時ニュースのテロップ以上のことは分からなかった。
「X国の人間衛星が空中分解」
翌日の新聞では、一面ではなかったが、国際面の割と大きな記事としてジャミラの遭難が取り扱われていた。突然、ジャミラの乗る人間衛星との通信が途絶え、レーダーでも捕捉できなくなったという。無線機の故障とかではなく、人間衛星そのものが忽然と消えてしまったのだ。
原因は不明とされ、隕石との衝突との憶測が記事の中では書かれていた。宇宙船ごと爆発してしまったら助からないと出発前、ジャミラは言っていた。
父ももちろんジャミラの遭難には興味を持っていて、色々な所から事実関係を確認していたが、報道以上のこと、すなわち隕石か何かに衝突してジャミラの乗った人間衛星は木っ端みじんに吹き飛んだこと、ジャミラは助からないこと、そして私はもう二度とジャミラに会うことができないこと、そういう悲しい事実しか分からなかった。
それから何日もの間、私はパリ市内の比較的大きな図書館に通い、情報を集めたが目ぼしいものは見つけられなかった。
ジャミラが客員研究員として通っていたパリ市内の研究所にも行ってみた。この研究所は余程の機密事項を扱っているのか、ジャミラの元上司や元同僚に会うことは元より、受付を突破することすら難しかった。結果、受付の職員とさんざんもめた上、すごすごと引き下がるしかなかった。
研究所を出ると「ちょっと、君、君!」と後ろから誰かを呼び掛ける男の声がした。最初はその声が自分に向けられているとは思わなかったので無視していたが、どうも自分に向けられているようだったので振り返るとスーツにネクタイ姿の若い男が手を振り、小走りで近寄って来た。
「君、今、ジャミラのことを聞いていたね?」
男は挨拶もせずにいきなり言った。私は二十代であろう若い男を睨み付けた。私の顔が怖かったのか、男は少し恐縮したような表情になった。
「ゴメンゴメン。いきなりだったかな。僕は△△△△紙のX国特派員でAというものだ」
A記者はそう名乗ると顔写真のついた身分証明書のようなものを私に見せた。私はそのIDカードらしきものを一瞥し、さらに何度か写真の顔と実物とを見比べた。端正な顔立ちで、さぞかし女性にモテるのだろうなと思った。
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