王様ゲームと、一色いろはの本気。
梅雨。
雨足とともに夏の気配を運んでくる、ジメジメした季節。
「暇ですねー」
スマホをスマスマスワーイプしながら言うのは、長机に肘をついて気怠げな雰囲気を醸し出している一色いろはだ。今日は雨だからサッカー部の活動はないのだろう、放課後一番に乗り込んで来てはこの様子である。
「暇だ暇だっていうと、余計に暇に感じるだけだぞ」
「まあ、先輩は暇そうじゃないからいいですよねー」
そりゃそうだろう、と俺は手にしていた文庫本を閉じた。本が一冊あれば暇など感じることはないし、何より娯楽に、教養になる。一説によれば読書によって得られるストレス解消効果はゲームの三倍にもなるらしい。まあ家に帰ったらゲームもするけどね。バクシンバクシーン。
「雨だと依頼が減るのかなぁ。⋯⋯確かに最近暇だね」
一色と同じく暇そうに携帯を弄っている由比ヶ浜は、ポツリとそう零す。天気は関係ないだろ⋯⋯と考えていると、この部屋の主たる雪ノ下はひっそりと溜め息をついた。
「暇なのはここに来るほどの悩みや問題がないということだから、悪いことではないと思うけれど」
「それはそうかもですけどー」
川なんとかさんの一件以来、奉仕部に大した依頼はない。何かあったとしても材木座と遊戯部とか言う謎部活の諍いをおさめたぐらいだが、よくよく考えてみるとこの部活も結構謎部活だ。奉仕部と言うより、よろず相談窓口じゃないの、この部活。
「あ、じゃあわたしが暇の潰し方を教えて下さいって依頼をします」
「まっすぐ家に帰ってテレビを観る。以上」
「先輩は本でも読んでてください却下です」
ちゃんと解決したのに酷い扱いだった。っていうか暇つぶしに来て暇だって言われてもなって話だ。いや一色が暇を潰しに来ているのかは知らんけど。
「うーん、みんなでトランプするとか?」
「ここにトランプなんてないわよ」
一色の依頼もどきに対する由比ヶ浜の案も、雪ノ下に即却下される。そんな物を持ち込んで遊びに興じていては本当に何部なのか分からない。
「ゲームはいい案かもですね。みんなで王様ゲームをするっていうのはどうですか?」
「却下ね」
「俺はやらんぞ」
「拒否するのはや⋯⋯」
口々に拒否した俺と雪ノ下に、一色は若干引いていた。
いやするわけねぇだろこの面子で。少なくとも俺と王様ゲームは縁もゆかりもなければ、全く似つかわしくない。雪ノ下だってそうだろう。一色のようなパリピ勢(推定)とは趣味嗜好がちがうのだ。
「えー、いいじゃん暇なんだし。二人じゃ王様ゲームになんないよ」
そんなことを考えていたら、パリピ勢(多分)がもう一人いた。ガハマさん、仲間内なら喜んでこういうのやりそうだよね⋯⋯。
お願いゆきのん、と腕を引く由比ヶ浜に、雪ノ下は表情を崩さない。
「絶対に嫌よ」
「あ⋯⋯、そっか。ゆきのん王様になれなかったら凄い悔しがりそうだもんね」
「確かに。超不機嫌になりそうですねー」
「あなたたち、何を勝手に──」
「雪ノ下先輩って、ひょっとして」
珍しく雪ノ下の言葉を遮った一色は、悪い笑みを浮かべて言った。
「王様になれなかった時が怖いからやりたくないんじゃないですか?」
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