ハーメルン
やはり俺にモテ期がくるのはまちがっている。
八幡は全力を出すことにした。

 夕方になり、俺たち林間学校サポートメンバーはビジターハウスの一室に集まっていた。
 これから行われる予定である、肝試しの準備の為だ。円を描くように集まった面々を見ると、平塚先生は一つ頷いてから言う。

「さて、今から肝試しの準備にかかるわけだが⋯⋯。その前に話し合いの結果を聞いておこう」

 話し合い、という言葉が指す事柄は一つしかない。昨晩話の進行役をやっていた葉山が、平塚先生の求めに応じる。

「昨日は、それぞれ持ち帰って考えようって話になりました。ただ、まだみんなで話はできていません」
「そうか。では今するといい。時間はあるからな」

 平塚先生はそう言うと、部屋の縁に移動して壁に背をあずけた。誰ともなく座りだすと、俺たちは車座になって顔を見合わせる。

「今日の自由時間に、たまたま留美ちゃん以外のあのグループの子たちと会ったんだ。それで少し話をした」

 その言葉を聞き届けると、雪ノ下はすっと目を細めて葉山を見た。その視線に気付いたのか、葉山は小さくかぶりを振る。

「留美ちゃんのことをそのまま聞いたわけじゃなくて、今何が流行ってるとか、そんな話から色々ね」
「まー、けっこう厄介な感じ? 自分たちのやってること、分かってないっていうか」
「分かってやってるのかも、ってわたしは思っちゃったけど」
「え、あれで何か分かったん? っべー、伏線気づかなかったわー」

 葉山の言葉の後に、三浦と海老名さんがふわっとした補足をする。あと戸部の情報はいらねぇ。
 しかし偶然とは言え、葉山たちも動いていたのか。話を聞くに、一筋縄ではいかなさそうだ。

「その様子を見ての結論だけど、この林間学校だけで解決するのは難しいと思う。⋯⋯根本的に解決するには、時間がかかる」

 その口振りから、葉山は和合への道を行くことが最適解だと信じていることが分かった。やはり俺と葉山は水と油だ。性質があまりにも違いすぎる。

「⋯⋯時間がかかるって部分には、同意だな」

 俺が呟くと、皆の視線が集まってくる。
 あの子たちを変えることは、土台無理な話なのだ。変わる意志のないものに、変化は訪れない。だが問題は変えることができる。
 問題を問題として捉えるか、目の前から消え去ってしまったり見えなくなったりするのは、自分次第だ。色の濃いサングラスをかけるのも、コンタクトレンズをつけるのも、全部自分でしかできない。それに気づくまで、時間はかかるのかも知れないが。

「俺たちは、これも偶然だけど留美と話をした。その上で俺は、これ以上は何もしないことにした」

 由比ヶ浜は心配そうに俺を見て、小町は腕組みをすると視線を床に落とした。続きを促すような雪ノ下の視線に、俺は返事をするように顎を引く。

「⋯⋯多分、あの子の中で何かが変わっていってる。だからこれ以上は、介入すべきじゃない」

 俺が言い切ると、しんと部屋は静まり返る。ずるくて、そして呪いのような言葉だ。聞けば後々の発言に気を回さなくてはならなくなる、鎖のような意見だった。
 それを聞いた上で、各々は何を思うのだろうか。雪ノ下と一色、それにさーちゃんは考えを留美に届けた。では由比ヶ浜は、小町は、さいちゃんは。俺の答えを聞いた上で、外側から働きかけたりしようとするだろうか。

「つまり俺たちには、やるべきことしか出来ないってことだな」

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