俺たちの花火大会は、色々と近い。
我が家にはペットが二匹いる。
比企谷家の愛猫・カマクラと、由比ヶ浜家の愛犬・サブレである。
サプライズで開かれた俺の誕生日会の少し後のことだ。夏休みも折り返しを過ぎた頃に、家族で旅行に行くという由比ヶ浜からサブレをあずかったのである。
「ひゃん!」
リビングでくつろぐ俺の足元で、サブレはすりすりと身を寄せてくる。あずかってからというもの、妙に懐いてくるのだ。
「元気だなぁ、お前」
そう言って頭を撫でると、サブレはハフハフと息を荒くさせた。
こうして犬の面倒を見ること自体、初めてではない。記憶も朧気になるぐらいずっと昔に、犬を飼っていたことがある。
しかし僅かな思い出を辿ってみても、ほとんどの世話は小町か両親がしていた気がする。だから犬の面倒を本当に見ていたかと言われると微妙なところだ。だってお世話される方が好きだしね、俺。
「ひゃん! ひゃんっ!」
それにしてもこのワンコ、飼い主に似て元気である。性格も飼い主に似るのか、それとも犬種によるものなのか。
そう言えばサブレの犬種って何だっけ。ミニチュア・ダックスフンドだったような気もするが⋯⋯由比ヶ浜に似てるから、もうガハマ犬でいいや(適当)。
「お手」
「ひゃん!」
何の気なしにそう言って手を出すと、サブレは右の前足を俺の手にのせてくる。どうやら基本の芸は、ちゃんと覚えさせているらしい。
「おまわり」
「ひゃん!」
サブレは元気に吠えると、左の前足を手にのせてきた。おかわりじゃねぇよちゃんとやれ。
「三べん回ってワン」
「ひゃんっ!」
サブレはくるくるーっと三回まわって鳴き声を上げた。そっちはできんのかよ⋯⋯。
他に何か芸ってあったっけ、なんて考えていると、ピンポーンとインターホンが鳴った。モニターを見に行くと、そこには見知った顔がある。
「出てくから、ちょっと待っててくれ」
『あ、⋯⋯うん』
インターホン越しの返事を聞き届けると、俺はサブレがついて来ないように注意しながらリビングから出た。玄関に下りて扉を開くと、サブレの飼い主が何やら紙袋を持って立っている。
「あ、やっはろー」
「おう」
いつもの謎挨拶をいつもの調子で受け止めると、由比ヶ浜は「はい」と紙袋を差し出してくる。
「ありがとね、サブレあずかっててくれて。これお土産」
「おお⋯⋯サンキュ」
ちらりと見た中身はどうやらお菓子の箱らしく、どどんと『地域限定』の文字が書いてある。こういうのちょっと割高だけど、元の味の再現度高くて美味いの多いんだよな。完全ネタ志向のは知らんけど。
「サブレ、リビングにいるから」
「あ、うん。お邪魔しまーす⋯⋯」
由比ヶ浜はそう言うと、我が家の中に入ってくる。靴を脱いで玄関に上がったところで、俺の中にふと思いつくことがあった。
「由比ヶ浜」
「え?」
俺が呼ぶと、お互い向き合うかたちになる。俺は手のひらを上にすると、由比ヶ浜の前に差し出した。
「お手」
「⋯⋯?」
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