第十八頁[優雅なる赤薔薇、華麗なる紫薔薇]
ロゴス・シーカーが開催しているという遺物オークション。
LOTの封魔司書である紫乃たちは、その開催場所を嗅ぎつけて乗り込み、調査を行う事となった。
だが辿り着いた船内の会場で、一行は驚愕の光景を目撃する。
「アダン……!?」
以前の戦いで紫乃たちを追い詰めた末、灰矢によって射殺されたかに見えた強敵、アダン・アルセニオ・エスカルラータ。
その彼が今、仮面の群衆たちの前に姿を現したのだ。
「お初お目にかかる方も多いでしょう。私はアダンと申します。拉致した人間の子供に戦闘訓練を施し、それを売るのを生業としております」
恭しく一礼すると、アダンは爽やかな笑顔を浮かべた。白々しい芝居染みた笑顔を。
怒りが徐々に湧いて来たのか、歯を軋ませた灰矢が懐に手を伸ばす。
「あの、野郎!」
それに気付いた紫乃は、彼を止めるべく慌てて声をかけた。
「やめろ灰矢、今は作戦中――」
次の瞬間。会場内に銃声が響き、アダンのスーツと左胸に風穴が開く。
発砲したのは灰矢でなければ紫乃でもなく、ましてロゼでもない。
黒いスーツに身を包んだオークション客の内の一人が、凶弾を放ったのだ。
「……あ゛ぁ?」
自分のスーツの胸部分から赤い染みが拡がって行くのを見下ろし、怪訝そうな顔をするアダン。
さらに、撃った者の他にも十数名がアサルトライフルを構えて前に出ると、一斉に射撃を始めた。
けたたましい銃声や轟く破壊音と共に、弾丸が壇上のアダンを何度も何度も貫き、鮮血と肉片を撒き散らす。
「くたばれアダン!!」
「死ねぇぇぇクソ野郎がァァァ!!」
罵声を浴びせる男たちは、銃砲を一切緩めない。
そして壇上へと、トドメとばかりに手榴弾が投げ込まれた。
響く爆発音。何が何やら紫乃たちにも分からない内に、銃弾が尽きたらしく、男たちは高笑いし始める。
「ハハハッ! やった、やったぞ! 散々俺たちの縄張りを荒らしやがって、人間風情がよ!」
「思い上がったゴミクズめが! 我らの神の供物となれ!」
「これで、積荷もラジエルの書も俺たちのものだ……貴様らも海の藻屑となるのだ!」
どうやら彼らは、LOTとは無関係な人間と戯我の集まりのようであった。
アダンらを敵視しているらしく、オークション開催を狙って結託してロゴス・シーカーに牙を剥く事を決めていたらしい。そして今度は他の乗客たちに銃口を向けていた。
だが、乗客や紫乃たちの視線は蜂起した集団には注がれていない。見つめる先にあるのは壇上だ。
様子に気付いた武装集団のひとりが振り返ろうとした刹那、彼らの背後に目にも留まらぬ速さで血塗れのアダンが迫り来る。
「な、あ……は!?」
眉間に穴が開いて血を噴いても、アダンはニィッと獰猛な笑顔をみせていた。
「ヒャハ! 盛大な拍手に感謝するぜェ、お客様よォ?」
「お……お、お、お前なんで生きてるんだよ!?」
体中を弾丸で貫かれ、しかも手榴弾の爆発に飲み込まれたはずの男が、まだ生きている。
しかもその銃創や焼け爛れた肌は、まるで録画映像を逆再生しているかのように徐々に修復されているのだ。
[9]前書き [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/11
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク