第2話 秘密
寺での講義が終わると今度は近場の川で水練となる。
俺は薄手の着物に着替えて、猿夜叉丸を探した。
寺での講義や道場の稽古では猿夜叉丸といつも一緒にいた。
理由は単に気が合うだけじゃない。学力も武術の腕も俺と猿夜叉丸は近しい。
学力はまぁ前世の知識で下駄を履いているだけで、補正がなければ確実に猿夜叉丸に負ける。武術は幸いなことに俺にも才能があったらしい。槍は猿夜叉丸に負けるが、刀と馬術では俺の方が勝っていた。
だが、事あるごとに一緒にいる猿夜叉丸も水練の時だけは違う。誰とも距離を取り、世話役の浅井家からきた家臣しか近づけない。着替えの時だって藪に隠れて行っている。
「一応、友達だからなぁ。あんまり隠し事はしないで欲しいんだが」
水練の時の猿夜叉丸の態度の急変。
それが気になって、俺は早めに着替え次第近くの藪を漁った。
ただ、それは案外難しいことだったりする。
なぜか浅井からきた家臣が辺りを見張っているからだ。
(いや、なんで野郎が着替えるのに警備がいるんだよ。中学高校ならまだしも、俺らまだ10歳児だぞ?)
ただ逆に浅井家臣の配置から、猿夜叉丸がどの藪に隠れているのかは想像がつく。後はどう接近するかだが、これが難しい。
奴らちゃんと死角がないように陣取ってやがる。
となると、あそこから引き剥がすしかないな。
一つ策を考えた俺は、堂々と家臣の一人に歩み寄る。
「ねえねえおじちゃん。あそこに猪が出たから退治して欲しいなー」
「なぬっ? それはまずい。何処か教えてくれ」
「ちょっと下がった大銀杏のところだよ」
「あいわかった。では、者共向かうとしよう」
ちょっと純真そうな子供を演じて騙す。
それでころっと騙されて家臣が斜面を降り、陣形に穴が開く。残った奴らも俺よりは猪や熊の方に意識が向く。
となると、俺が茂みに近づくのは容易い。
「さて、そこにいるのは分かっているぞ、猿夜叉丸。なんで水練のたびに姿を晦ますのか、洗いざらい吐いてもらおうか」
意気揚々と茂みを覗き込む。
そこには、一糸纏わぬ猿夜叉丸の姿があった。
だが、俺はすぐさま見なきゃよかったと後悔する。
なぜならば、
「え? 猿夜叉丸、お前チ○ポないんか」
……男だと思っていた猿夜叉丸が女だったからである。
*
その後のことはあんまり覚えてない。
彼女の悲鳴で駆けつけた家臣団にぼこぼこにぶん殴られて、気づいたら屋敷の中で目が覚めた。
目の前には、行儀良く座る猿夜叉丸の姿があった。ただ、いつもの男装ではなく結っている髪は下され、少女らしい小袖を着ている。
(こう見ると、本当にこいつはお姫様なんだな……)
人形のように整った猿夜叉丸の姿を見て思う。
おそらくは今まで見た誰よりも美人かもしれない。……それが、男友達だっての癪だが。
「ようやく、起きたな。……それで覚えているか?」
「ああ、お前に竿がなかったことだろ? あんな衝撃的な絵面、そうそう忘れられるか」
「そうか。忘れられないか」
「ああ。……悪かった。お前が女だなんてつゆほども思わなかったんだ。どうせチ○ポが小さいから恥ずかしくて隠れて着替えているとばかり」
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